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新しい「定位置」への一歩 (百乃モト『レイニーソング』)

2013.10.25 17:56|百合作品
レイニーソング (IDコミックス 百合姫コミックス)レイニーソング (IDコミックス 百合姫コミックス)
(2013/10/18)
百乃 モト

商品詳細を見る

彼女→彼女へのラブソング こぼれる想いを詰め込んだ読切短編集 (帯より)


百乃モトさんの短編集『レイニーソング』が発売されました。
前作『キミ恋リミット』からおよそ三年、高校生のみずみずしい青春な話から、
社会人のしっとりした大人な話までそろった作品になっていたと思います。
今回はその中でも特に、「或る少女の群青」を中心に紹介していきます。
これは、高校生の鈴(すず)と、大人の知見(ちみ)が対照的に描き出される、
『レイニーソング』を象徴するような物語になっています。



○「或る少女の群青」:新しい「定位置」への一歩


「或る少女の群青」は、高校一年生になったばかりの鈴が、
一組のカップルを何となくいいなあと眺めているところから始まります。
高校への通学のために、毎朝使っている電車に必ず乗り込んでくる二人。
決まって自分の正面に位置取る「特別な関係」の彼女たちを、
電車での定位置に腰かけて観察することが鈴の日課になっていました。
二人の会話を聞いているだけで、何となく幸せな気分になって一日が始められるのです。

しかしある時、ふとしたきっかけでそのうちの一人、
知見に声をかけられて――というところから物語は動き出します。
そこから、知見とその恋人・江里が二人でいるのを見るのが好きだったはずなのに、
どんどん知見に惹かれていく自分に鈴は気が付きます。

鈴は自分の内にある二つの感情の間で揺れ動くことになるのです。

あたしは二人を見ているのが好きなだけで

――違う違う! 私のは憧れだもんッ!!
「……憧れ」

キスとかする仲で 二人はちゃんとつき合ってて すごくお似合いで

――知見さんと仲良くなれたからって… 優しくしてくれるからって…

知見さんには江里さんがいるのに (27-28ページ)


そんなとき、鈴は知見が江里と破局したということを知ることになります。
いつも自分の座る席の正面を埋めていた二人は、今や一人になってしまいました。
それを半ば諦めて受け入れている知見に対して、全然納得できない鈴。
この辺りに、大人である知見と、子どもである鈴の対比が見出せます。
そして、やがて溜め込んでいた鈴の感情が、知見の前で爆発してしまいます。

「あたし 知見さんを一人にしたくない」
「え?」
「あたしとデートしてください!!」
「!?」
「あたしで良かったら知見さんの見たかった映画
 一緒に行きましょう!? 日曜日でも いつでも いいですから」
「ちょ なに……… 鈴ちゃ……」
「江里さんとできなかったこと いっぱいしましょう!?
 あたしは絶対に知見さんを一人にしませんから!! あたしなら…
 あたしなら知見さんのことずっと大好きでいられますから…!!!
 大丈夫ですから……!! 明日の朝 返事くださいねッ!!」

「大丈夫って… なにが…… …鈴ちゃんは… 眩しいな」 (39-42ページ)


この鈴の告白で物語はおしまいです。
この後、知見がどのような返事をするのか、想像の余地を残す終わり方になっています。
その意味で「或る少女の群青」は、いわゆる「続きが欲しい」作品なのですが、
その続きは作中の表現によって、ある程度は仄めかされているように思います。
今回は、そうした表現に注目して、そこから想像を膨らませてみることにしましょう。

まず、上記の引用で知見は、鈴を「眩しい」と言っていますが、
その直前で鈴も知見のことをそう述べています。

高校1年の通学ラッシュは毎日が燦々としていて
知見さんが一人になってもそれは変わることはなくて
それどころか眩しすぎてもうまともになんか見てらんない (38-39ページ)


この独白は、江里が知見の隣からいなくなっても、変わらずに毎日が燦々としていることから、
鈴が、自身の知見への好意に改めて気が付いたことを示すものとして取ることができます。
知見と江里を見ているのが好きだから、毎朝が楽しい。
そういった理由で否定した知見への好意が、ここで改めて前面に飛び出てきているのです。
そこで、知見が鈴について述べたのと同じ表現が使われていることは重大です。
二人は、破局について全く逆の受け止め方をしており、
ここにおいて大人と子どもという差異が明確になっているものの、
お互いに対して抱く印象は、「眩しい」という同じものでした。
ここに、鈴と知見が一緒にいる未来を見出すことができます。
最後の最後に知見が鈴を「眩しい」と言ったとき、二人は既に隣に並んでいるのです。

次に、「電車での定位置」を使った暗示に注目します。
この作品では、冒頭より朝の電車内の定位置が強調されています。
席に座っている鈴の正面に、知見と江里の二人が隣同士で立つ。
この位置取りがそのまま、三人の関係を示していました。
知見と江里は恋人で、鈴はそれを観察する立場にある。

知見と江里の破局は知見を一人にして、この三人の関係を変えていくことになります。
そして、どのように変わっていくかという問題のヒントとなるのが、
江里が不在で、鈴と知見が二人きりで出会ったときの「定位置」の変化です。

以下の場面では、知見と江里はまだ別れていませんが、
江里がいないときの二人の定位置の変更は、江里がいなくなった場合に、
鈴と知見の関係が如何に動いていくかということを暗示していると思います。

「って…あれ? 知見さん一人…」
「あー…うん 江里 遅刻…かな?」
「………そっか… ほっ」

――ん…? ほっ?

「それよりなんで無視してたの?」
「!!! 無視とかそんな…!! えっと…
 二人の邪魔しちゃ悪いかなぁ~とかおもって…」
「なにそれ もう… そんなの気にしてたのかぁ
 良かった… 私 鈴ちゃんに嫌われたのかと思って…」
「そんなわけないじゃないですか!!」
「寂しかったよ もぅ!」
「あ あ…! 隣空きましたよ! どうぞ!
「ありがと! 席空くなんて珍しいねー」 (23-25ページ)


ここで鈴は、普段江里の隣に「立っていた」知見を、自分の隣に「座らせる」のです。
恋人と別れて、ただ一人電車の中で立つことになった知見への先の告白は、
それだけだと「前恋人の代わりになる」という主旨と取ることもできます。
しかし途中のこの暗示が、そうではないことをそれとなく示しています。

すなわち、江里が珍しくいなかったあの日、知見を隣に「座らせた」鈴は、
告白の後、おそらく彼女の隣に「立つ」ことになるのではありません。
そうして前恋人の定位置を自分が埋めるのではなく、
知見を「座らせ」新しい定位置に引っ張りこむのだと思います。

この場面の定位置の変化が、これからの二人の新しい関係を仄めかしています。
鈴は映画の代わりに買い物に行きたがっていた江里とは異なり、
知見と一緒に、彼女の見たがっていた映画を見に行こうとするのです。

結論として、作中の「眩しい」という表現、江里がいないときの「定位置」の変化を鑑みると、
鈴の告白は、二人が隣に並ぶ未来、新しい関係へと至る未来へ繋がると想像できます。
それはいわば、知見の隣という「新しい定位置への一歩」だったのです。



「或る少女の群青」の表現に関しては以上です。
「眩しい」という表現や「電車での定位置」という道具を使って、
二人の関係のこれからをやんわりと仄めかして見せるところが秀逸で、
いわば上質な小説の読後感をもたらす作品だったと思います。
読み直して色々と考えて、一層好きになるタイプの作品です。

個人的には百乃モトさんと言えば、「或る少女の群青」もそうですが、
「二人の恋愛を眺める主人公」という構図の物語が特徴的です。
けだし、その中の「見る主人公の心情」に光るものがあります。
『レイニーソング』で言えば、「スノーフレイクス」もそうした物語と捉えられます。

またワイルドローズでの作品も、主人公が二人を覗き見るところから始まりました。

百合姫Wildrose Vol.7 (IDコミックス 百合姫コミックス)百合姫Wildrose Vol.7 (IDコミックス 百合姫コミックス)
(2013/07/27)
アンソロジー

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無防備なカーテンの向こう 異世界に映る その先 たった2mの距離

――また違う女の子連れ込んでる… 今月3人目… ……

3ヵ月前に 偶然見てしまった

――モテるな… お隣りのお姉さん この時間いるってことは大学生かな
 カーテン…… いつも開いてて… こっから丸見えなのに…
 いけないって思ってても やめられなくて 抜け出せなくて (73-75ページ)


こうした視線、また見る者の心情の描写が非常に上手く、読み手をぐっと引き込むため、
作品を触れるときに注目して読んでみると良いかと思います。


テーマ:漫画の感想
ジャンル:アニメ・コミック

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