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嘘と忘却を乗り越えた先で (くろば・U『明日また君の家へ』)

2013.10.22 17:21|百合作品
明日また君の家へ (XOコミックス) (XOコミックス 百合シリーズ)明日また君の家へ (XOコミックス) (XOコミックス 百合シリーズ)
(2013/10/10)
くろば・U

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私がお姉ちゃんの代わりになる (帯より)


くろば・Uさんが色百合/彩百合シリーズに掲載していた作品をまとめた、
作品集『明日また君の家へ』が先日発売されました。
どれも読み込ませる作品ばかりで、掲載されていた頃から好きだったため、
単行本が出ると聞いたときには本当に嬉しかったですね。
今回は私なりに感じた作品の魅力を紹介してみたいと思います。

とりわけ連載である「Virtual」に注目しますが、
その前にそれ以外の作品を少しだけ紹介します。
色百合に掲載された「Virtual」以外の三作には、女ったらしの由真が登場します。
多くの人に想いを向ける彼女の考え方が、一つの見所になっていると思います。
次に挙げるのは、作品集の序盤でいきなり提示される彼女と友人の会話です。

「由真 あんた何人女の子に手出した?」
「ん? 別に大したことないよ キスまで十人 さわったのは六人で」
「食いすぎだよ じゅーぶん!
 ――まぁ あんたがどんな恋愛しようと勝手だが
 とっかえひっかえつーのは 相手の気持ちとさ あと先生に目つけられたら――」
「さすがそーみ 良家のお嬢様はマジメですな」
「フツーだろ」

「一応相手のことは考えてるつもりだよ
 お話して遊びに行って で 気持ちが通じ合ったらこう」
「はいはい」
私は いろんな人の心に触れたい 嬉しいことも悩みも共有したい
 一生の間で誰かと話せる時間って有限だから 可能な限り仲よくなってみたいんだ
 好き同士になってキスなりHなりってのは副産物みたいなもんで」 (3-4ページ)


「Skew Lines」、「よりみち」では、由真の相手となる側からの視点で、
こうした考えを持つ彼女に触れて何を思うかということが描かれていきます。
その中で特に印象に残るのが、上述したような由真の語りです。
いろんな人のこころに触れたいという由真の考え方。
ここに注目して読むと、これらの作品の固有性を見出せるのではないでしょうか。
「あとがき」ではいずれ彼女を主軸にした長編を書きたいという話が出ていましたが、
個人的にはそれをものすごく読んでみたいと思います。



○「Virtual」:嘘と忘却を乗り越えた先で


「Virtual」は、虚構で塗り固められた心と菜々花の関係を描いた作品です。
菜々花の姉である美空が母親と出て行ったことに、仲の良かった心が傷つくと考えた菜々花は、
姿の似ている自分が美空であるということにして、心と関わり続けることにします。
この「虚構(バーチャル)」の関係から抜け出いていく過程が作中で描かれるものです。
二人は関係を続ける中で、虚構を続けるための「嘘」をゆっくりと取り除いていって、
最後には二人とも本当の気持ちで、ごっこ遊びのような結婚式を行います。

「野宮菜々花さん 病める時も健やかなる時も
 相川心さんと共にいることを誓いますか?」
「――ソレは結婚する側のセリフじゃないよ?」
「えっ そうだっけ?」
「くす 誓います」
「えへへ じゃあこれは新婚旅行?」
「そうなるかもね」

女の子同士 ごっこ遊びのような私達二人「お嫁さん」
それは結婚というにはあまりにも拙く 玩具の指輪のようで
虚構(バーチャル)なものでしかないだろうけど 手の温もりは 今 確かに

「行こう こころちゃん」
「うん」

これからも変わり続けていく景色を これからも二人一緒に眺めていたい
そう誓った私の思いが こころちゃんと繋がった気がしたんだ (169-171ページ)


菜々花が美空であるということにする虚構の関係を乗り越えて、
二人は安いペアリングを使って、小さな結婚式を挙げるのです。
それは幼子のごっこ遊びのように気軽な雰囲気で行われるのですが、
参加する二人の気持ちはごっこ遊びではない。
本当の気持ちのこもった拙い結婚式が、二人の関係の一応の結末です。

しかし、「Virtual」はここで終わりません。
この先にコミックスの描き下ろし分が続いていきます。

描き下ろしは、「そういうことにする」という嘘で成り立っていた虚構の関係が崩されて、
二人が本当の気持ちを確認した後に、その気持ちに対して改めて疑問をぶつけます。
すなわち、それも「本当の気持ちを確認したことにした」だけではないかと問うてくるのです。
これまでのことは「本当に、虚構でなかったの?」という具合に。

菜々花と心が新しい関係を始めるに当たり、半ば「なかったことにした」美空が訪ねてきます。
事情を知った彼女は、もう虚構の関係を続ける必要はないと二人に迫ります。
二人は「そういうことにする」という積極的な「嘘」こそ乗り越えましたが、新しい関係は、
美空を半ば「なかったことにする」という消極的な「忘却」によって成り立っていました。
二人が嘘を取り払っても残存した「忘却」、その中身が二人の関係を調べる試金石になります。
美空本人に迫られても、虚構でないと答えることができるのかが厳しく問われるのです。

「菜々花 大きくなったね こころちゃんを悲しませないように
 ずっとがんばってくれてありがとう 
 パパに聞いたんだ ようやく全部もとどおりにできるよ――」(中略)

お姉ちゃんが帰るまでの こころちゃんを悲しませないためだけの
幼い幼いごっこ遊び だから帰って来たらごっこ遊びはおしまいで
待ち侘びていたあの日と同じ じゃあ そこから生まれた新しい関係は―― (183-185ページ)


この時点で美空と、菜々花と心の間にはどうしようもない擦れ違いが生じています。
つまり、菜々花と心は虚構の中にいることを止めた一方、
本当の美空に関わることは「忘却」して、その上に自分たちの関係を築いていました。
それとは逆に美空は、自分が母親から受けた仕打ちは全く忘却せずに(180ページ)、
心は自分を助ける王子様だという「虚構」を作ることで自分を維持していました(181ページ)。
二人は「そうだったことにしていない」が、「なかったことにしている」のに対して、
美空は「なかったことにしていない」が、「そうだったことにしている」のです。

虚構と忘却という選択肢が双方の間でかみ合っていません。

ゆえに美空と再会したとき、お互いの忘却と虚構は破壊されていくことになります。
菜々花と心は、目の前にいる美空によって嫌でも彼女のことを思い出します。
美空も、自分を支えていたものが虚構にしか過ぎなかったことを知ります。
双方の安定は、出会うことによって揺るがされることになるのです。
美空は、虚構の中に入ってくれない心を「ニセモノ」と考えることで自分を維持しようとしました。
けれども、かつて自分が心にあげたリボンが、「ニセモノ」ではないことを教えてしまいます。
そのときの美空の心情は、ちょっと言葉では表せないものです。
ただあの場面の美空の苦悶の表情だけが、それを辛うじて伝えています。


虚構から抜け出した二人と、未だ虚構の中にいた美空。


このどうしようもない断絶のために、三人は現時点でまだ一緒に過ごすことはできません。
美空が、自分の外傷を見れるようになった心を、「ニセモノ」と罵るのは象徴的です。
彼女の目が現実を捉えられるように、眼鏡を買ったのは菜々花に他なりませんでした。

結果として、美空のことを考えるとハッピーエンドと手放しには言えませんが、
虚構かどうかを美空に改めて問われて、見たくない現実を改めて見つめさせられて、
その上で二人が一言ずつ掛け合う場面こそ、この作品のこころに違いなかったと思います。

嘘と忘却を乗り越えた先で、二人はたった一言、確かめるようにつぶやくのです。

誰だったっけ ――誰かが言っていた気がする
大人になるためには知りたくもない事実も受け止めなければならない――って

「なっちゃん 愛してるよ」
「… 私も」 (194ページ)


この、「愛してるよ」という一言を。


テーマ:百合
ジャンル:アニメ・コミック

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