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ミステリーからリトルホラーへ (『マリア様がみてる』「ワンペア」)

2013.10.17 17:40|マリア様がみてる
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(2009/07/01)
今野 緒雪

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本日は久々に、『マリア様がみてる』の記事です。
今回は特に、「リトル ホラーズ」に収録されている短編、「ワンペア」に注目します。
この作品に関して、先日ツイッターに書いたことをまとめ直していきます。

とはいえ、アニメ派の方など、この作品まで触れたことのない方もいると思うので、
祐巳たちの出てくる「リトル ホラーズ」本編の見所も少しだけ紹介してみます。
「リトル ホラーズ」は祥子と令が卒業して、祐巳たちが薔薇さまになった後の話です。
とりわけ印象的なのは次の場面で、祐巳が、由乃の妹になった菜々を諭しています。

「由乃さんさ。以前、自分より剣道が強い子は妹にしたくないって言ってたんだよね」
 祐巳さまが、ポツリと言った。その言葉を聞いて、菜々は「やっぱり」と思った。やっぱり、嫌なんだ。それが何であれ、自分より上に妹がいるというのは面白くないことなのだろう。
 祐巳さまの話では、その発言を聞いたのは去年の秋頃。山百合会主催の茶話会前後というから、まだ二人が出会う前のことだ。
「でも、結局菜々ちゃんを選んだ。それって、どういうことかわかる?」
 尋ねられて、正直に首を横に振る。何がきっかけで剣道上級者を妹にしたいと考えを改めたのかもわからなかったし、祐巳さまがそんな話をする理由もわからなかった。
「そんな条件がどうでもよくなっちゃうほど、菜々ちゃんが良かったってこと」
「え」
 思わず、水道管を離しそうになるほど驚いた。でもすぐに「まずい」と思って、慌てて握り直す。そんな菜々の様子を、祐巳さまは横目で眺めながらほほえんだ。
「菜々ちゃんを好きになっちゃったんだから。菜々ちゃんが妹になってくれるだけで、十分だってことじゃないの?」
 ああ、こんな時に。菜々は恨めしく隣りにいる人を見た。
本当に大切な人は、ただ側にいてくれるだけでいいんだってば
 どうして、こんな殺し文句をさらりと言ってくれるのだろう。 (176ページ)


ちょっと省略できず、一ページ全部引用してしまいました。
注目すべきは、ここでの祐巳の薔薇さまとしての振舞いですよね。
蓉子を思い出させるような、下級生に対する真っ直ぐな領導です。
祥子の卒業という一応のエンディングを迎えた後で、
きちんと薔薇さまになっている祐巳が、ここではっきりと描かれています。
「仮面のアクトレス」で蓉子を目標として挙げたことは、ここで回収されていると思います。
そして「フェアウェルブーケ」では、それに続いて聖のような祐巳も描かれる。

本編に関しては、なだらかなエピローグの雰囲気の中で描かれる、
「祐巳の成長の結果」こそ、注目すべき見所であると思います。



○ミステリーからリトルホラーへ:語らなくなる多子


それでは続いて、短編「ワンペア」に関する紹介に移ります。

『マリア様がみてる』で本編でない短編へ注目が集まることは相対的に稀ですが、
個人的にはこの「ワンペア」という短編がすごく好きなんですよね。
話としては、ただならぬ雰囲気を纏った異常に綺麗な双子の少女に、
その担任が翻弄される話なのですが、書き方が異様に怖いのです。

ワンペアの怖さというのは、結局真相がよく分からない点に求められるのですが、
その原因は、担任が双子に翻弄され、最後には捕らわれたことに見出せます。
彼女たちに惹きつけられたことで、担任が語るべきことを語らなくなる。
その不気味さが、「ワンペア」を確かにホラーにしていると思うのです。
もう少し詳しく述べていくことにしましょう。

多子(なこ)は、同い年の従兄である一也(かずや)が失踪したことを受けて、
彼が以前勤務していたリリアン女学園につてを使って就職します。
何故彼は失踪しているのか、彼は無事なのかをそこで確かめるためです。
結果、コハクとメノウという双子の生徒が、深く関係していたことを突き止めます。
そして、彼女たちの口から、一也の失踪の契機を聞かされることになります。
そして、多子は一也が今どこにいるのか、二人に問い質そうとします。

「一也はどこ?」
 多子は落ち葉の中で身を起こして、穴の縁に立つ二人を見上げた。髪にもコートにも土や葉っぱをつけたままだったが、構わなかった。
「知らないわ」
「私たちはここに落としただけ」
 冷ややかな視線が返ってくる。
「まさか」
 多子は半狂乱になって、足もとの落ち葉を素手でかき起こした。一也がここに落ちた。その後、どうなったのだ。まさか、まだこの下に――。
 必死で掘り返していると、頭上から高笑いが聞こえてきた。
「きれいよ先生」
「あなた、本当に素敵だわ」
 言い残して背中を向ける二人。
「待って」
 多子は、無我夢中で穴から這い上がると、必死で追いかけた。落ちた時にひねったのか、右足が痛くて思うように走れない。それをあざ笑うかのように、コハクとメノウは蝶のようにヒラヒラと逃げる。まるで、ここまでおいでと、からかっているみたいだ。
 銀杏並木を進んで、マリア像の前まで来ると、二人は立ち止まって振り返った。
 追いついた多子に、ニッコリとほほえむ。
 天使だろうが悪魔だろうが構わない。
 あまりに美しくて、多子は何もできないまま立ちつくした。 (161-162ページ)


この後、多子はただ平穏に授業を行い、時々双子の少女を気に掛けるだけで、何も語りません。
とりわけ最も大きな関心事であったはずの一也の生死についてまるで触れなくなります。
その不気味な多子の反転が描かれて、そのまま物語に幕が下ろされるとき、
読み手は彼女が翻弄された末に、どこかへ行ってしまったという感覚を抱かざるを得ないと思います。

確かに、一也が失踪するきっかけとなった事件に関しては、二人から明らかになりました。
しかし、一也の生死に関してはノータッチで、謎のまま残されています。
何故、多子はそのことについて何も語らなくなるのでしょうか。
失踪していた一也に実際に会うことができた?
死体になった一也にどこかで対面した?
先の引用と、「何も語らない」後日談からすると、どちらも異なります。
多子にとって、一也の生死がどうでもよい事柄になったからこそ、平穏に日々を過ごすのです。
眼前の美しい二人の前に、彼女たちに抱いた気持ちの前に、一也は霧散してしまいます。

言うなれば、一也の行方を追って、不思議な二人と対峙していた多子は、
彼女たちに穴に落とされ、マリア像の前でほほえまれたところで向こうに行ってしまったのです。
多子は殺されるわけでも何でもないのですが、読み手を置いて一線を飛び越えてしまった。
そこに何とも言えない恐怖があります。
それは、ホラーの登場人物が得体の知れない何者かに誘われて、
向こうの世界に取り込まれたのを見たときの恐怖に似たものです。

ゆえに「ワンペア」は、最初は『マリア様がみてる』お得意の「プチミステリー」で進行しながら、
最後に急に「リトルホラー」に化ける作品であると言うことができます。
多子が向こうに行ってしまったため、結局一也がどうなったのかよく分からない。
その結末に触れたときの怖さ、気持ち悪さは、確かにホラーがもたらすそれなのです。


テーマ:マリア様がみてる
ジャンル:アニメ・コミック

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