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「一文字違い」に見る二つのテーマ (井村瑛『ツミキズム』)

2013.06.09 19:55|百合作品
ツミキズム (百合姫コミックス)ツミキズム (百合姫コミックス)
(2013/05/18)
井村 瑛

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――胸にぐんときたのは きっとその笑顔が生身の私に向けられていたからだね
 名前をきくのを忘れなくてよかった
 朝子さん…
 たったあれだけで 一瞬で あなたのこと 私のこと
 両方とも 好きになれたのです(120-121)


母親の意向に従って、「乙女系アイドル」を演じてきたほたるが、
ある日、朝子と名乗る女性に出会ったことで、「自分」でいくことを決断する――
本作に収録されている「キラキラの中身」は、そこから始まる物語です。
今回は、この物語を中心に『ツミキズム』を紹介していきます。
特に考えていくのは、ほたると朝子の間でやり取りされる言葉です。
ここに注目すると、本作の一つの読み方が提示できると思います。



○「一文字違い」に見る二つのテーマ:「自己の確立」と「本心の告白」


まず、ほたるは公園で自身の好きな作家である、
湯川旬の作品を読んでいる最中、朝子に声をかけられます。
そして、彼女の話に移ったとき、朝子はキャラで答えようとしたほたるを叱ります。

「実際 その湯川先生がここにいてさぁ 好き❤ とか言われたらどうすんの?」
「は はは… ありえないですよ そんなの…」

「う…」

――あ そうだ 〝倉見ほたる〟でいこう

「きゃーん それって今 じわじわきてる百合ってやつですかぁー お姉さま❤的なあー」
「なんで急にキャラつくったの 自分の心で言いなよ」(中略)

「ど 同性愛者…じゃないから 好かれても正直困る! 無理!」(116-118)


最後には「自分の心で」答えたほたるに対して、朝子は笑顔で応えます。
この朝子との出会いを契機に、ほたるはキャラを作って活動することを止めることにします。
母親に従って動くのではなく、「自分のままで」アイドルすることを決意するのです。
後日、ほたるは朝子にお礼を伝えようとしますが、朝子はほたるをあからさまに避け出します。
ゆえに、実は朝子は湯川旬そのひとだったわけですが、
ほたるはそのことを知る由もなく、彼女と疎遠になってしまいます。

二人が再会したのは、ほたるの写真集のサイン会で、
朝子が湯川旬としてゲストに呼ばれたためでした。
ここでほたるは、朝子が彼女を避けた理由を悟り、楽屋で彼女を問い詰めます。
彼女はほたるがアイドルであると知って、自分と噂になることを恐れたのです。

「会わないなんて言わないでください 私は朝子さんのこと…好きなんですから」
「悪いけど私は なんともおもってないから」
「じゃ じゃあ なんで公園で「好かれたらどうする」なんて聞いたんですか
 サイン会に来たのも… さっきだってどうも思ってない相手の映像なんていらないでしょう」
「あんまり私と会ってると
 週刊誌に下世話な記事書かれちゃうよ 事務所的にまずいんじゃないの」

自分の心を言いなよ ここなら他に誰もいないから」

「わ 私も… 私だって… 私のほうが… ずっと前から…だもん」
「朝子さんっ」
「…ひゃっ 誰か来たらどうすんの」

そうだ あやまらなきゃ 「好かれても困る」なんてごめんなさい 全部嘘でした。(132-134)


かつて自分に向けられた言葉を、ほたるが返していることが分かります。
朝子の言葉で変わったほたるが、今度は朝子に言葉をぶつけるという綺麗な展開です。
ほたるが湯川旬のエッセイをなぞって、敢えて朝子の言葉を使ったとも言えます。
参考までに、作中に出て来る湯川旬のエッセイの一説を引いてみます。

しかし恋愛となるとどうも不器用になってしまう。
普段えらそうなことばかり言うものだから、さらに困る。
恋に落ち、まぬけになった私を過去の言葉たちがここぞとばかりに打ちとろうとしてくるのだ。
(113)


まさしく朝子の過去の言葉で、ほたるが打ちとることになったわけです。
この物語は確かに、ほたるが朝子の言葉を受け取って、それを朝子に返す形になっています。

しかし、私が本当に強調したいのはそこではありません。
私が強調したいのは、二人の言葉の間にある「一文字の違い」です。
すなわち、朝子は「自分の心で」と述べるのに対し、ほたるは「自分の心を」と述べています。
この「で」と「を」という一文字の違いこそ、重要な点であると思います。
けだし、そこにこそ背中合わせの二つのテーマが隠れているのです。
それぞれ順番に考えてみましょう。

まず、ほたるへ向けられた「自分の心で言いなよ」の方では、
「自分を確立すること」が問題にされています。

他人に流されてキャラを作り、自己を埋没させるのではなく、
他ならぬ「自分として生きること」を、ほたるは朝子から学ぶのです。
それはほたるが湯川旬に憧れを抱いた理由であり、ほたるに出来ていないことでした。
ほたるの物語は、朝子との関わりの中で、
「自己の確立」という最終目標を達成する物語であったと言えると思います。

次に、朝子へ向けられた「自分の心を言いなよ」の方では、
「自分の本心を告白すること」が問題にされています。

実際に朝子は、ほたるとの初会話の時点から、彼女に対して極めて「不器用」に振る舞っていました。
「痴女?」という最初の一言から分かるように、非常に尖った対応をしていたのです。
朝子は、ほたるの言葉を受けて初めて、彼女に素直な気持ちを伝えることができました。
朝子の物語は、ほたるとの関わりの中で、
「本心の告白」という最終目標を達成する物語であったと言えると思います。

「自己の確立」と「本心の告白」。

非常に近いけれども確かに差異のある、この二つのテーマこそ、「で」と「を」の間にあるものです。
『ツミキズム』で言えば、「自己の確立」は、「迷彩トルソー」や「Dr.LunchBox」でも描かれました。
また「本心の告白」の方は、「見つけちゃ、ダメ」が描いていると考えられます。
「キラキラの中身」は、その二つの潮流が出会い、一つになっている物語なのです。
この作品の中では、ほたるが朝子の言葉を受け取って、それを返すという枠組みの中で、
それぞれのテーマを持つ二つの物語が進行していると考えられます。

「自分の心で言いなよ」と「自分の心を言いなよ」。
けだし、似て非なる二つの言葉は、彼女たちがそれぞれ経験した物語を端的に示しています。
二人の想いの成就は、ほたると朝子、それぞれの物語の先に位置する共通の終着点なのです。


テーマ:百合
ジャンル:アニメ・コミック

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