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それが「虚像に彩られたもの」だったとしても (柏原麻実『少女惑星』)

2013.04.14 20:07|百合作品
少女惑星 (百合姫コミックス)少女惑星 (百合姫コミックス)
(2013/03/18)
柏原 麻実

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今回は、柏原麻実さん『少女惑星』の表題作に関して、少し考えて見ようと思います。
タイトルや袖の作者の言葉からも分かるように、何処か不安定な「少女期」を描いている本作。
中でも表題作「少女惑星」は、由美浜先輩に憧れる映像写真部の少女、
木蓮の心理描写を通して、彼女の先輩への想いを細かく取り上げています。

これから論じていく対象は、その「木蓮の想い」についてです。
他の作品の話も少しだけ交えながら、「少女惑星」の主題について考えて見たいと思います。
というのも、この作品の「木蓮の想い」の取り上げ方が、私には意義深いものに見えるのです。



○「恋愛」と「憧憬」の対比:敢えて「憧憬」を描いた『少女惑星』


まず、木蓮の由美浜先輩への想いは、「恋愛」に結びつく感情ではありません。
そのことは、由美浜先輩と土井部長のキスを目撃する場面で痛烈に提示されています。

…え? うそ なに… 今の
「うそ… なんで…?」
だって由美浜先輩… 土井部長…女の人だよ?
「え…? なに? 私… え?」
私の今までの気持ちも… どういうことなの?(121-122)


先輩二人のキスを目の当たりにして木蓮が示すのは、
由美浜先輩に恋人がいたことへの動揺ではなく、
はっきり言って、彼女の同性愛への拒否感でした。
「運命」を感じて由美浜先輩に積極的にアプローチをしかけていた木蓮にとって、
この自身の同性愛への疑義は衝撃的であり、彼女は自身の想いが分からなくなります。

おそらく木蓮はそれまで、自身の想いを「恋愛」に通ずるものと考えていたのでしょう。
それが、咄嗟に出た自身の本音によって完全に否定されてしまいます。

ここでこの作品が行っているのは、由美浜先輩と土井部長の間にある「恋愛」と、
木蓮が抱いてきた、恋愛ではない「憧憬」との間の対比です。
木蓮の感情が「恋愛」ではなかったことが、鮮明に表現されています。

こうした対比は、特に女子校が舞台の百合作品においては珍しいものではありません。
女子校だからこそ育まれるような「疑似恋愛」、群を抜く美貌を持つ同輩への「憧れ」、
エス的な「お姉さまへの思慕」、「女子校恋愛」、言い方は様々あるでしょうが、
そうした「恋愛」ではない恋愛に似た好意と、「恋愛」との対比は他の作品にも見出せます。

二つばかり例を、『少女惑星』と同じ百合姫作品から探してみましょう。

まず、乙ひよりさん『オレンジイエロー』に所収されている「恋の証明」があります。
一部を引用してみましょう。

オレンジイエロー―短編集 (IDコミックス 百合姫コミックス)オレンジイエロー―短編集 (IDコミックス 百合姫コミックス)
(2010/05/18)
乙 ひより

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「あ さっきの彼女?」
「違いますよ 告白されて… キスしてくれたら諦めますって言われたんです
 キスしたら忘れられるなんて ホント お手軽ですよね
 バカみたい 女(わたし)を好きなんて… 
 あのこ 今 女子校(ここ)だから言えるんですよ」(82-83)


最後の二行が端的で痛快ですね。
「恋の証明」は、同輩の少女に告白を何度も受けたことのある主人公が、
自身の想い人である先生に告白の場面を見られたところから始まる物語です。
主人公は卒業後も想い続けることにより、自身の感情が本当に「恋」であることを証明します。
「恋愛」と、それとは異なる「憧憬」を峻別していることがお分かりいただけるでしょう。

次に、大沢やよいさん『ブラックヤギーと劇薬まどれーぬ』の「さかしまシンデレラ」です。
以下の引用は、「さかしまシンデレラ」の冒頭からのものです。

ブラックヤギーと劇薬まどれーぬ (百合姫コミックス)ブラックヤギーと劇薬まどれーぬ (百合姫コミックス)
(2012/05/18)
大沢 やよい

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女子校でありがちな―― 女同士の恋なんていうのは
思い描かれるような耽美で甘やかなもの ではなく
実際は友だちの延長でしかないと思う
愛を告白して それなりに二人で過ごして 悲しみながら別れを告げる
そんなテンプレートをなぞるだけ
ようは退屈な学生生活の 暇つぶしでしかないんだろう(71)


「さかしまシンデレラ」では、そのような考えを持っていた主人公が、
軽い気持ちで恋人になった相手の少女に、初デートでラブホテルに連れて行かれ、
当初の彼女の「常識」をがりがりと一気に崩されていくことになります。
相手の少女の「恋人同士になったらセックスをする 違いますか?」という台詞が印象的です。
ここでも、「女子校でありがちな」女同士の恋と「恋愛」が区別されています。

さて、「少女惑星」もこうした対比を行っている作品と言えます。
しかし上述の作品と異なるのは、主題が「恋愛」の側ではなく、「憧憬」の側にあるという点です。
「少女惑星」は二つを並べながら、敢えて木蓮の「憧憬」の方を描いています。

けれども、それでいて「恋愛」に対して「憧憬」を持ち上げるわけではありません。
実際、木蓮自身が自分の想いを、二人に比べて「ちっぽけ」(140)と述べています。
「恋愛」を、疑似恋愛的な「憧憬」以上に肯定している点では、上述の作品と変わらないのです。
特徴的と考えられるのは、自身の想いが「憧憬」に過ぎないと悟って、
落ち込んでいた木蓮に友人が向けた以下の言葉に他なりません。

「はじけた中にだって… なにか残っている想いがあるんじゃないの…?」(131)


これこそ、「少女惑星」の根幹をなす問題提起であったと思います。
本当の「恋愛」に遠く及ばない「憧憬」の中にだって、
何らかの大切な想いが存在し得るのではないか。

この問いへの答えとして、木蓮は登校日に由美浜先輩に告げます。

「でもあのとき本当に想い合う二人を前にしたら 私の想いなんてちっぽけすぎて…!
 今までの想いも… 全部はじけて丸裸にされちゃって…!
 どうしたらいいかわかんなくなっちゃって……っ
 でも……はじけとんだ中にあったのはやっぱり…
 センパイが好きっていう気持ちでした……!」

たとえ土井部長にはかなわなくても…… 憧れに似た気持ちであっても
一緒に笑うやわらかい表情や仕草 日に透ける細い髪とか 共にしてきた時間全部--

「やっぱり全部全部… 大好きでした……‼」(140-141)


由美浜先輩の言うように、木蓮の「憧憬」は「淡い虚像に彩られたもの」(137)でした。
しかし、それが「淡い虚像に彩られたもの」だったとしても、
その根底には木蓮の「大切な想い」が存在していたのです。

それが「少女惑星」の結論であって、また特徴的な部分であったと私は思います。
「恋愛」と「憧憬」という二項の対比を引き継ぎながら、敢えて「憧憬」を掘り下げる。
そこで描かれる「憧憬」の是非はともかく、その点で「少女惑星」は興味深い作品です。


テーマ:百合
ジャンル:アニメ・コミック

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