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静香にとってのPと未来の立ち位置 ――アイドルにさせてくれた人と、アイドルであると言わせてくれた人 (門司雪『アイドルマスター ミリオンライブ!2』)

2015.09.27 17:46|アイドルマスター
今回は、先日発売された漫画版『アイドルマスター ミリオンライブ!2』について考えます。
第一巻で静香のステージを見てアイドルになった未来が、
体調を崩した静香の代わりとして初めてのステージに立つ本巻。
静香の想いをみんなに届けたいという一心で頑張り、
アイドルとしての第一歩を踏み出した未来でしたが、
静香はそんな未来に対して同じアイドルとしての複雑な感情を抱きます。
第二巻は、ここから生じた二人の間の溝が、再び埋まるまでを著した作品です。

作中で印象的なのは、Pにファンと名乗り出られたゆえに、
Pのことを意識してステージに臨もうとしている静香を見たときの春香の言葉です。

「ねえ千早ちゃん、私気付いちゃった。」
「どうしたの? 春香。」
私たち普段はただの女のコだけど、
 応援してくれるファンが一人でもいてくれたら…
 その瞬間からアイドルになれるのかもって。」(二巻、165ページ)


これは、なかなかに示唆的な言葉であったと思います。
私には、アイドルマスターという作品のアイドルの考え方が、
直接に示されているように思われました。

つまり、アイドルマスターにおいて、どこからアイドルがアイドルなのかと言えば、
それはアイドルがアイドルを志したときでも、アイドルが初めてステージに立ったときでもない。
アイドルに一人でもファンができたときであるという考え方です。
そのときから、そのアイドルの物語が始まると考えられます。
特に、アイドルがアイドルを志したときからではないことが特徴的です。

だからこそ、アイドルマスターの物語は主に、
Pとアイドルが出会ったときから始まるのではないでしょうか。
それは、アイドルに一人目のファンができた瞬間に他ならないから。
前述の考え方があるからこそ、アイドルマスターの物語は、そこから始まると捉えられるのです。

この記事では、その上で、静香にとってのPと未来の立ち位置を考えます。
春香によれば、静香はPという一人目のファンを得て、アイドルとなりました(二巻、165ページ)。
しかし他方で、静香は未来の言葉を受けて初めて、
自分が「アイドル最上静香」であると言えたのです。

「皆アンコールありがとう!
 杏奈がステージを盛り上げて星梨花が背中を押してくれて、
 皆が声援をくれたから全力で歌えました。
 最後にこのアンコールマイク、どうしても受け取って欲しいの…
 私のいちばんのアイドル…静香ちゃんに。」 (中略)

「未来、私…」
「遅刻だよ、静香ちゃん。」

――私…アイドルになりたいの。アイドルになりたい。

――…違う、私は… 私は!
「アイドル! 最上静香歌います!」 (二巻156-180ページ)


ここで静香は、「アイドルになりたい」という希望を、
「アイドルである」という自認に転換させることに成功しています。
未来のところに駆けていった静香の手首から、時計が落ちてしまうことは象徴的です。
期限内にアイドルとして認められなければならないという、時間を意識した急いた気持ちが、
ここでは、今自分はアイドルであるのだという気持ちの中に溶けています。
未来によって、静香は自分が今アイドルであることを自認して、
期限を意識して焦る気持ちから解放されたと言えるでしょう。

しかし、未来が静香にアイドルであることを自認させたということは、
同時にPはそうはできなかったということです。
この静香の物語においては、この意味でPの存在の重要性が相対化されています。
ゆえに、静香に対してPはどのような立ち位置であったのかという疑問が生じます。
アイドルマスターの物語においては、原則として、
アイドルにとってPが極めて大きな意味を持つ人物として描かれてきました。
そうしたアイドルマスターの物語の一つであるのに、Pの存在を相対化したこの作品は、
静香にとってのPを、そして同時に未来を、どのように描いていたのでしょうか。

以下、このことについて思索を巡らせてみたいと思います。
ここが、この作品において最も特徴的であるからこそ、
この問いを考えることによって、アイドルマスターという作品群の中にあって、
この作品がどのような位置にあり、どのようなテーマを持つかを理解することができるでしょう。
もしよろしければ、この作品を手に、少しの間お付き合いいただければ幸いです。

それでは、静香にとってのPと未来の立ち位置について考えてみましょう。
未来が静香に今アイドルであることを意識させた展開を鑑みると、
まず最初に次のような考えが浮かぶのではないでしょうか。
すなわち、静香をアイドルにする一人目のファンは、Pでなくて未来であったという読み方です。

実際に静香のファンとなったのは、未来よりもPの方が遥かに早く、
Pが一人目のファンであったに違いないのですが、
静香の意識の上で、一人目のファンになることができたのは、
未来に他ならなかったのではなかったでしょうか。
自分をアイドルとして見てくれると、信じられた一人目。

つまり、静香は彼女を取り巻く環境もあって冷静過ぎたために、
Pを一人目のファンとして完全には受容することはできず(二巻、164ページ)、
あの文化祭のステージで「いちばんのアイドル」として呼びかけてくれた、
未来をこそ一人目のファンとして受容できたのではないでしょうか。

だからこそ静香は、初ステージに立ったときでなく、文化祭のステージに立ったときにこそ、
「アイドル最上静香」として、初めてマイクを手に取れた(二巻、180ページ)と捉えられます。
漫画版ミリオンライブ二巻は、未来という本当の一人目のファンを得て、
静香が真にアイマスのアイドルになるまでの物語と言えないでしょうか。

正直に言えば、これが私自身の当初の読み方でした。
Pでなく未来が、静香の一人目のファンとなって、
静香をアイドルにする物語という読み方です。
しかし、今ではこの読み方には不備があると思います。
というのも、春香は、Pにファンと名乗られた後の静香の様子を見て、
応援してくれるファンが一人でもいてくれたら、
その瞬間からアイドルになれるということに気付いています。
春香は、あのときにこそ静香が、アイドルになったことを感じて、
それゆえにそのことに気付けたのだと思います。
仮に静香がPにファンと名乗り出られて、
それを意識してアイドルになっていなかったとすれば、
春香が先の事実に気付く理由はないのです。

とすれば、静香の一人目のファンがPでなく未来であったという私の考えは、
少なくとも正確とは言えないでしょう。
静香はPというファンによって、確かにアイドルになっているのです。
漫画版ミリオンライブが描いたのは、Pが一人目のファンとなって静香をアイドルにし、
未来が別の意味で特別なファンとなり、静香に今アイドルであることを意識させる、
そんな静香の物語であったのではないでしょうか。

それでは、この読み方について説明していきます。

Pがファンとして名乗り出たとき、静香は冷静に「ファンとは違う」と否定してはいても、
Pが応援してくれる存在であることまでは否定できておらず、
彼のことを想ってステージに立った限りにおいて、
春香の言うとおり、Pという一人目のファンを得て「アイドルになれた」と言えます。

しかし、静香にとって「アイドルになる」ことは、
最終的には「皆に愛されるようなアイドル」になることを意味します。
そのため、単にPの立場から応援されるだけでは、
アイドルになれたと考え、自分はアイドルであるとは言えなかったのではないでしょうか。
つまり、アイドルに理解のない人も含めて、
誰からも認められるようなアイドルを大目標にしている静香にとっては、
そういった立場の一人目のファンを得て初めて、
アイドルになれたと意識することができると考えられます。
アイドルを分かっていないような人が静香をアイドルとして認めてくれることが、
静香が自分で自分はアイドルであると言えるためには必要でした。

PはPであるゆえに、アイドルについて知ってしまっているので、
絶対にこの立ち位置には立てません。
Pは、静香の一人目のファンになれたとしても、
静香がアイドルになれたと言えるためのファンにはなれなかったのです。

そして、未来は、まさしくそういう意味での一人目のファンに他なりませんでした。
当初アイドルのことについて全然分かっていませんでしたが、
静香のステージを見て、静香をアイドルとして認めてくれた最初のファン。
だからこそ未来が、文化祭のステージで静香に、
静香が「私のいちばんのアイドル」であることを伝えたことは意味を持ちました。

また、加えて未来は、幼き日の静香がテレビの中のアイドルの姿に憧れて(二巻、79ページ)、
アイドルになったのと同じように、静香の姿に憧れてアイドルになったファンです。
アイドルを知らない未来が、自分をアイドルと認めて、
更に憧れてアイドルになってくれた。
静香は文化祭のステージでの未来の言葉を聞き、このことを改めて意識して、
それゆえに自分のことを「アイドル最上静香」と言えたと考えられます。

結論として、「静香がアイドルになるということ」と、
「静香がアイドルであると言えるということ」の間には差があって、
前者を成さしめたのはPであったのですが、後者を成さしめたのは未来であり、
また未来でなければならなかったと言えます。
静香の物語については、アイドルになるに当たって、この二重の過程があったのです。
そこにおいてPは、アイドルにさせてくれた人という立ち位置にあり、
未来は、アイドルであると言わせてくれた人という立ち位置にあります。

二人がいてこそ、静香はアイドルになり、また、アイドルになったと意識して、
自分は「アイドル最上静香」であると述べることができたのです。



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  手を引く静香の歌としての『Precious Grain』 (第一巻の記事)



テーマ:アイドルマスター
ジャンル:アニメ・コミック

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