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魔女であった娘と、騎士でもあったかも知れない娘 (犬丸『演劇部の魔女と騎士』)

2015.08.16 21:09|百合作品
今回は、『ひらり、』等に掲載された作品をまとめた、
犬丸さん『演劇部の魔女と騎士』について考えたいと思います。
物静かで、それでいて周囲をよく見ている唯地と、
彼女のところに髪の毛を触りに通う内藤の関係を初めとして、
演劇部で紡がれる部員たち各々の繋がりを描いた本作。
演劇部の代をまたいで展開される、個々の短編を繋いでいく作品の要は、
末尾の解説で小川一水さんが語っているとおり二つあって、
演劇部の中にいつだって見出せる「よい心」のつながりと、
語り切らないことにより仄かに示される「女の子同士の思い合い」であったと言えるでしょう。
この二つは、作中で如何にもテーマとして突き付けられるわけではありませんが、
それでも読後には胸の中に静かに響いているものであると思います。
お読みでない方は、是非お読みになって、このテーマを感じてみてください。

今回この記事では、先述した小川一水さんの解説から、考え始めたいと思います。
百合漫画作品では珍しくも、末尾に付されている解説ですが、
ここにおいて一つの問題が提起されています。
一部を以下に引用します。

 さて、最大の問題は、誰が魔女で誰が騎士なのか、だ。
 これはわからなくて作者に直接聞いたのだが、唯地がウィッチで内藤がナイトですというストレートな答えが来てしまって面食らった。それは読めばわかる。わからないのは内藤のどこがナイトかというところだ。
 内藤が騎士のごとく唯地を守るシーンはない。逆に作中作では魔女として島の女を誑かしに現れたようにも読める。そして唯地はしばしば口に出さずとも内藤を慮り、二人の関係を秘そうとする。その内心は魔女というよりも、むしろ。
 唯地と内藤が机を挟んだあの一瞬、どちらから顔を寄せたのか。それが描かれていない以上は、魔女がナイトでナイトが魔女かもしれない。
 そんな楽しみ方もできる。

 小川一水『魔女でないかもしれない娘と、いないかもしれない騎士』
   (犬丸『演劇部の魔女と騎士』、169ページ)


この作品の最大の疑問の一つとなるのは、上記解説で述べられているように、
騎士に重ねられているであろう内藤のどこが騎士であるのかということに違いないと思います。
これについて、唯地は魔女でないかも知れないと考え、
内藤は騎士でないかも知れないと考えるのは、
一つの読み方、楽しみ方として、膝を打ちたくなるものです。
実際に「魔女と騎士・海賊版」で魔女は魔女でありませんでしたし、
騎士に相当するであろう魔女狩師の方が実は本物の魔女でした。
それもあり、率直に言って、この読み方に私は結構魅せられています。

しかし他方で、内藤を騎士として読むことはできないのか。
漫画のタイトルのとおり、魔女と騎士の物語として考えることはできないのか。
考察をする立場として、ここを改めて考えてみる必要も感じるのです。
私としては、それを突き詰めないわけにはいられません。
そこで、以下では作中の騎士がどのような存在であるかを確かめた上で、
そこから唯地と内藤がそれに当てはまらないのかを考えていきます。

それは、解説に掲げられているものとは別の、読み方、楽しみ方に繋がるはずです。
もしよろしければ、作品をもう一度読みつつ、お付き合いいただければと思います。


さて、内藤のどの辺りが騎士であるかという問題を考えるに当たり重要なのは、
この作品において騎士は、誰かを「守る者」であるだけなのかということです。
確かに、騎士と言えば誰かを守るイメージでもって語り得るものですが、
魔女との関係においては騎士は、守る者ではなく、「討つ者」なのではないでしょうか。

現に「魔女と騎士・海賊版」においては、
騎士に相当するであろう役は「魔女狩師」となっています。
それは、魔女を討つためにはるばる島にやって来る者です。
騎士は、例えばどこかの国の王女を相手には「守る者」たり得るかも知れませんが、
国にとって得体の知れない脅威である魔女を相手には「討つ者」となるのではないでしょうか。

そうであるとすれば、内藤の騎士であったかどうかという問いは、
内藤が唯地を騎士らしく守る者であったかという基準でなく、
騎士らしく討つ者であったかという基準によって考えなければならないと思います。
そして、この基準をもって考えると、内藤は確かに騎士であったと言えるのです。

すなわち内藤は、劇中での魔女にイメージがぴったり合う、
あまり喋らず落ち着いている、元々の唯地の性質を討つ者として登場しています。
唯地は、中一のときに劇中の黒髪の魔女に合うと周囲に目されています(58ページ)。
彼女がこのように周囲に魔女に重ねられる理由は、作中で言明されてはいませんが、
一つ考えられることとしては、「魔女と騎士・海賊版」で提出されている、
黒髪の魔女と同様の性質を彼女も有していたということがあります。

つまり、本を読み続け(45ページ)、迷信と知っていた(52ページ)魔女と同じように、
よく本を読み(37ページ)、色々なことを知ってそうである(23ページ)。
一人で島にいながら、魔女狩師のことを知っていた(46ページ)魔女と同じように、
自分からは人に絡まないが、人のことについてよく聴き、よく知っている(15-16ページ)。
唯地は、作中で示されている魔女と同様の性質を、元々持っていたのです。

このように、魔女と同じ性質を持っていた唯地について、肉薄していって、
それがそう見えるだけと気付き、崩していくのが内藤であったと言えます。
唯地と内藤が出会ったときの、次の場面は象徴的です。

「ゆいっちー」
「…… 私?」
「うん かわいいかなって」
「……」
「変かな」
「…… わからない」
「…そう 何でも知ってそうなのにね」

――なんで そんな事いうの 頭の中を直接触っているみたいに (17-18ページ)


内藤は、魔女狩師が魔女に肉薄していって、彼女が魔女でないと気付いたように、
唯地の側へと近付いていって、彼女が何でも知ってはいないことに気付いているのです。
内藤は、こうして唯地に近付くことで、「あまり喋らないけどすごい頭良い」(12ページ)、
「何でも知ってそう」な、魔女のような唯地について、
彼女が魔女でないと気付き、魔女に似た性質を崩していきます。
唯地は内藤と関わることで、照れ、驚き、動揺する、ただの人になるのです。
こうした感情の動きだけは、劇中の魔女と重ねることはできません。
作中で描かれている限りにおいて、魔女は魔女狩師に淡々と対応しています。
この意味において、内藤は魔女としての唯地を討っているのです。

よって結論として、内藤のどこが騎士なのかと言えば、
まるで劇中の魔女のような、種々の性質を持っている唯地に肉薄していって、
彼女をその魔女らしさを討った点において「騎士」であったのではないかと思います。
『演劇部の魔女と騎士』は、元々魔女であった唯地と、
騎士でもあったかも知れない内藤の物語であったのです。



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テーマ:漫画の感想
ジャンル:アニメ・コミック

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