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愛と千春にとっての「卒業」の意味の転換 ――三人で外に出て行く機会として (缶乃『あの娘にキスと白百合を 2』)

2015.03.08 17:16|百合作品
あの娘にキスと白百合を 2 (MFコミックス アライブシリーズ)あの娘にキスと白百合を 2 (MFコミックス アライブシリーズ)
(2014/12/22)
缶乃

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今回は、缶乃さんの『あの娘にキスと白百合を 2』について考えます。
最初に読んだことのない方にざっくりと内容をご紹介しようかと思います。
中高一貫の女子学園、清蘭学園を舞台として展開される少女たちの恋模様を、
半ばオムニバス形式でそれぞれに描いていく本作品。
主な語り手が一人に固定されていないこともあって、
色々な立場の感情の機微がきっちりと描かれる点が最大の見所かと思います。
例えば、以下の真夜の回想が、個人的には胸に残りました。

「真夜ちゃんが好き」

――「私も好きよ」なんて 言われたいわけえはないのだろうと思った
 目を見て 触れて キスがしたいということ

「ごめんなさい 私 あなたが求めているもの
 与えられる自信がない」
「そうだよね いきなり変なこと言ってごめん」
「けど私嬉しかったわ これからも良い友達でいましょうね」

――愛されたように愛をかえせないのは
 きっと才能がないのね 私
 (pp.175-178)


この作品は、愛した側を描くだけでなくて、愛された側をもきっちり描いていくのです。
秀才のあやかが天才のゆりねに出会う第一巻においても、
一方であやかがゆりねがいるために受ける劣等感を描きつつも、
他方でゆりねの天才であるがゆえの孤独を描いていましたが、
こうしたそれぞれの感情の機微の描き込みが、この作品の特筆すべき点かと思います。
第二巻においては、真夜を想う愛や千春の痛みだけが描かれるわけではなくて、
想われた真夜の苦しみも上記のように描かれていくのです。

けだし、このように個々の心情をきっちり描いているからこそ、女子学園を舞台とする作品ながら、
女子校もののテンプレートに当てはめて見るだけでは足りない作品となっています。
表紙を一見して女子校もののテンプレートかと思った人にこそ読んで欲しい一作です。

さて、今回は、この作品において描かれた「卒業」について考えます。
出会いをテーマとした第一巻に対して、「卒業」という別れをテーマとした第二巻。
ここにおいて、「卒業」とはどのように描かれていたのでしょうか。
このことについて、特に「扉を開いて外に出て行く」描写に注目して読み込んでいきます。
既にお読みになった方は、もしよろしければお付き合いください。



真夜が卒業するまでの一連の物語においては、
主に千春に関わって扉を開いて外に出て行く描写が頻繁に出てきます。
具体的には、第七話で閉じ込められた寮の物置から出て行く場面(pp.61-62)、
第八話で伊澄に連れられて真夜を見送りに家から出て行く場面(pp.86-89)、
第十話で卒業式の日に、愛と千春が部屋を出て行く真夜を見送った直後に、
伊澄が現れたために後から二人で部屋から出て行く場面(pp.147-148)の三箇所です。

このうちの第七話の場面において、
扉を開けて外に出て行くことは、真夜が卒業して寮を出て行くことと、
それを受け入れて進んでいくことと重ねられていることが分かります。
当初千春は、真夜と一緒に部屋の中に留まって心中したいと望んでいました(pp.55-60)。
これは、卒業せずにずっと寮で一緒にいたいという彼女の心情を表していると考えられます。
しかし、千春は卒業式の日には、真夜や愛とともに扉を開いて外に出て行くことになります。
この変化により強調されたのは、「卒業生が出て行き、在校生が残る」という、
典型的な卒業の枠にはまったものとは異なる「卒業」であったのではないでしょうか。

つまり、真夜の卒業に際して描かれたのは、真夜が部屋から出て行く一方、
千春と愛が部屋に残るというような、両者を分断する機会としての卒業でなくて、
三人ともが部屋を出て、新しい関係を作っていく機会としての「卒業」であったのです。
愛も千春も、当初は卒業を前者の意味で捉えていました。
しかし、真夜の卒業までに、二人は後者の意味で捉えていくようになります。
そうして真夜の卒業を受け入れて、一緒に外に出て行くのです。
それでは二人は何故、卒業の意味を捉え直すことができたのでしょうか。

まずは、千春の理由について考えてみましょう。
特に千春が「卒業」を後者の意味で捉え直すに当たり、
重要な役割を果たしたのが伊澄に他なりません。

このことが第八話の扉を開いて外に出て行く場面に表れていることは言うまでもないでしょう。
第八話で、真夜を見送りもせずに部屋にこもっていた千春を、
半ば無理矢理に外に連れ出したのは伊澄でした。

また、このことは第十話の扉を開いて外に出て行く場面にも表れています。
第十話で最初三人は、部屋の中でお別れを澄ました後、真夜だけが外に出て行って、
愛と千春は寮室の中に残る形に収めるつもりでいたと考えられます。
真夜が外に出て行った時点で、愛と千春に後を追おうという態度は見出せません。
伊澄が外でスタンバイしていなければ、おそらく中に留まっていたでしょう。
しかし、伊澄が外でスタンバイしていたため、
愛と千春は真夜を部屋の中で見送る形を取った直後に、
自分たちも部屋から出て行くことを余儀なくされています。
ここでも、真夜が出て行き二人が残るというような、
スタンダードな卒業の形が伊澄によって破壊されていることが、
三人が扉を開いて外に出て行くことで強調されているのです。

伊澄は、従前の真夜たち三人の関係に部外者の位置から四人目として入っていくことで、
特に千春に卒業を、真夜が出て行き愛と千春が残る「分断」の機会としてではなく、
四人での関係を編み直す「再構築」の機会として捉え直させていると考えられます。
現に千春は、伊澄が距離を詰めてきたために、
伊澄を自分たちの関係に入れていくことを考えるに至っています。

「へえー! 中等部の子?
 あたし上原愛! よろしくー!!」
「秋月伊澄っす よろしくー…」

「ど どういう風の吹き回し? なんで紹介してくれたの?」(中略)

これから先もやっていくつもりなら
 いつまでもコソコソしてるわけにもいかないでしょ
 安全そうなところから紹介していかないと

――デコ先輩 あたしのこと考えてくれてたのか…! (pp.127-128)


伊澄は千春に、関係を再構築していくことを意識させているのです。
千春は、一方で伊澄に半ば無理矢理に手を引かれて外に出て行くとともに、
他方で伊澄のために自分から外に出て行く意志を固めていると考えられます。

次に、愛の理由について考えてみましょう。
第十話で真夜とともに部屋を出て行くのは千春ばかりではありませんでした。
愛もまた、このときには真夜の卒業を受け入れて、一緒に外に出て行くのです。
愛の場合は、以下のゆりねの言葉によって、
卒業が分断の機会から再形成の機会に変化していると考えられます。

卒業が、自分たちを残して真夜だけが出て行くものではなくて、
自分たちも真夜の後を追って出て行くものに転換しているのです。

「今みたいにせんぱいと会えなくなるのイヤだよ
 でもそんなこと言ったら先輩を困らせちゃう でもイヤだよ~」
じゃあ 自分もその学校入ればいいじゃん 2年は一緒にいられる」
「でも とっても難しいらしいんだよ…?」
「まだ1年生なんだからどうとでもなるでしょ」
「おおお…? そうなのかな…? そうなのかも…」 (pp.22-23)


ここで愛は、真夜に一緒に残ってもらうことを望むのではなくて、
真夜の後を追っていくことを考えるようになっています。
ゆりねの言葉により、真夜とともに扉の外に出て行く気持ちを持てたと考えられます。

結論として、第二巻で当初「卒業」は、
真夜が扉の外に出て行き愛と千春が残る「分断の機会」であったところから、
三人で外に出て関係を編み直す「再構築の機会」へと転換する様を描いた話であったと思います。
愛と千春はそれぞれ、片やゆりねの言葉によって、片や伊澄の存在によって、
卒業を三人の関係のリスタートの機会として捉え直していくのです。


テーマ:漫画の感想
ジャンル:アニメ・コミック

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