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私を私と認めてくれる「友達」 (文尾文『さよならカストール』)

2014.02.13 17:30|百合作品
SAKURA (1) (まんがタイムKRコミックス)SAKURA (1) (まんがタイムKRコミックス)
(2014/01/27)
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今回は、芳文社より創刊された「きらら×百合」なアンソロジー、
『SAKURA』に収録された作品について、紹介しつつ考察してみたいと思います。
扱うのは、文尾文さんの「さよならカストール」です。
まずは内容をざっくりと紹介させていただきます。

これは一言で言えば、七瀬が事故で亡くなった恋人の花菜と「さよなら」する話です。
花菜と入れ替わりで自分のルームメイトとなった、
花菜の双子の妹・陽菜と接する中で、七瀬は悲しい気持ちを振り払います。
花菜と「同じ服 同じ顔 同じ声の」陽菜は、七瀬に花菜を不可避に思い出させましたが、
それでも彼女が「別人」であることを悟って前に進んでいくことにするのです。

そして七瀬は最終的に、陽菜と「友達」になります。

この時点で陽菜と「恋人」になりたいと思わなかった点に、
七瀬がしっかり、花菜とは別人として陽菜を認識していることが表れています。

あらすじを語り終えたところで、少しタイトルに注目してみましょう。
タイトルの「カストール」とは、ふたご座の首星の名前です。
また、その元となった双子の英雄の兄の方の名前でもあります。
言うまでもなく、事故で死んでしまった花菜がそれに重ねられています。
ただストーリーは、神話の流れを完全に踏襲しているわけではありません。
すなわち、花菜の死に対峙するのは陽菜ではなく七瀬であり、
彼女は生きていく者として花菜にきちんと「さよなら」をするのです。

ポリュデウケスがカストールと共にあることを選ぶ元の物語とは決別しています。

さて、今回はこの物語を、陽菜の視点から読んでみたいと思います。
先に述べたあらすじを確認していただければ分かるように、
「さよならカストール」は七瀬が花菜と「さよなら」する物語です。
ゆえに、これは第一に「七瀬の物語」と言うことができます。
しかし実は、その裏で「陽菜の物語」も進行していたのです。
彼女の内心は七瀬ほどには明らかにされていませんが、
作中にはそれに関するヒントが散りばめられていました。
このヒントを拾っていくことで、この作品を「陽菜の物語」として読み直していきます。
そうして別の側面からも読むことで、物語をより楽しむことができると思います。



○文尾文『さよならカストール』:私を私と認めてくれる「友達」


まずは、作中で描かれている陽菜の背景について触れておこうと思います。
極めて特殊なのは、陽菜は双子の妹であるにもかかわらず、
花菜とほとんど交流を持っていなかったということです。
中庭で声をかけてきた七瀬に対して、陽菜は次のように語ります。

「この中庭 姉が好きだったって聞いて
 あ 姉と言ってもね
 小さい頃に別々に引き取られたから 何も知らないんだけど…」 (186ページ)


後の場面より、彼女たちが幼い頃にそれぞれに引き取られたのは、
母親が亡くなってしまったためであることが推測できます(189ページ)。
そしてそれ以降会うことがなかったため、陽菜は花菜のことを全然知らなかったのです。
それでは、花菜とは異なるところで生活していたはずの陽菜が、
花菜と入れ替わるようにして転入してきたのは何故でしょうか。

これには、彼女たちの祖父が絡んでいると考えられます。
彼は死別という悲しみを上手く乗り越えられなかったためか、
孫である花菜を、自分の娘(花菜の母)の代わりとして扱っていました。
生前の花菜は、送られてきた部屋着を前にして次のように語ります。

「これ 母が若い頃に使っていたのよ」
「花菜が小さいときに亡くなったっていう?」
「そうそう もう顔も覚えてないんだけどね 今の私に良く似ていたって
 おじいちゃんったら 私を母の代わりにしたくて仕方ないのね」 (189ページ)


そして、花菜も亡くなってしまった今、彼は陽菜に同じ部屋着を再び送っています。
花菜の更なる「形代」として陽菜を扱おうとしているのです。
このことを鑑みると、花菜の死に際してこの祖父が陽菜を引き取り、
花菜と同じ学校に陽菜を転入させたと考えられます。

このことについて、陽菜は特に何も語ってはいません。
けれども、何か思うところがあったということは、次の二つの場面から推測できます。
すなわち、送られてきた服について七瀬が「知ってる」と答えた場面と、
七瀬が陽菜について花菜とは「全然似てないわ」と答える場面です。
両方とも前後を引用しておくことにします。

部屋に戻ると陽菜の祖父から小包が届いていた
中身は冬物の衣料で それは去年花菜が着ていたものだった

「必死ねぇ」
「え?」
「ううん 何でもないの
 ねぇ これ全部 私の母が着ていた物なんだって」
うん…知ってる
「本当に何でも知ってるのね」

当たり前だ――
――だってそれは以前彼女が言ってたことだから (187-189ページ)


「付き合ってたの 大好きだったの
 明るくて いつだって優しくて なのに 急にいなくなって」
「そんなに私に似てた? 風邪引くよ」
「ありがとう … 全然 全然似てないわ
「そう」 (196-198ページ)


注目すべきは、下線で強調した七瀬の言葉に対する陽菜の反応です。
反応と言っても、返答に注目するのではなく表情を確認してみてください。
この二つの場面の陽菜の表情の描き方は、明らかに似せられています。
両方とも目は隠され、それより下だけが描かれているのです。
しかし、よく似た構図ではあるのですが、背景は正反対になっています。
つまり、「知ってる」の方は黒、「全然似てないわ」の方は白です。
これが、陽菜の心情を暗示しているとは考えられないでしょうか。
前のシーンでは暗い気持ちに、後のシーンでは明るい気持ちになっている。

陽菜は内心、姉と重ねて見られることに複雑な感情を抱いていたのだと思います。
だから、自分が服のことについて語り、七瀬が「知ってる」と答えた際には、
彼女の反応は黒の背景で仄めかされるのです。
花菜と親しかった七瀬が服のことについて「知ってる」ということは、
花菜も自分と同じように扱われていたということに他なりません。
七瀬は陽菜に、自分が形代として扱われているという事実を改めて突き付けてしまったのです。
陽菜は仄暗い気持ちを表には出していませんが、背景がそれを密かに語っています。

これに対して、「全然似てないわ」の後は真っ白な背景です。
ここは夜の中庭での場面であるため、この明るさはかなり目立っています。
言うまでもなく、花菜とは違うと言われた喜びが示唆されていると考えられます。

こういったことを鑑みると、クライマックスの中庭の場面というのは、
七瀬が花菜としっかり「さよなら」をした場面でもあると同時に、
陽菜が自分を認めてくれる大切な人に出会った場面でもあると言えます。
陽菜は祖父ばかりでなく、クラスメイトにも「花菜の妹」として見られてきました(185ページ)。
そんな彼女がここで初めて、私を私と認めてくれる「友達」を手に入れたのです。
「さよならカストール」では、七瀬が前に進み出す様が描かれていますが、
それは他方で「花菜の妹」ではない陽菜との関係を築いていくことを意味します。

次の場面は、七瀬の前進が陽菜にとっても嬉しいものであったことを示していると思います。

「いい子でいたかったの いい子でいられる気がしたわ
 あの子の前では でも あなたはあの子じゃないものね
「…そうよ」 (200ページ)


そう声をかけ合う「二人の」表情と、このときの背景は明るいのです。


テーマ:漫画の感想
ジャンル:アニメ・コミック

コメント

No title

私も自分のブログで『SAKURA』の紹介記事を書きましたが、
この『さよならカストール』はスルーしました。
正確には、「下書き段階では触れてたけど外した」のです。
いい話過ぎて、納得のいく感想文が書けなかったから…。
私の百合レベルでは無理でした (>_<)
素晴らしいレビューをありがとうございます♪

小説やコミックで 死別した恋人に似た人、
もしくは双子が姉妹が登場する話はよくありますが、
二人が結ばれるよりも、本作のような結末の方が私は好きです。
七瀬は陽菜の出現に戸惑いつつも、
最後には「陽菜と花菜は違う」と悟り、
お互いに相手のことを認め合う関係になりました。
今後、二人がどうなっていくのかはわかりませんが、
なぜか恋人にはならないような気がします。
それはやっぱり、「陽菜と花菜は違う」から。

女の友情が好きではない私ですが、本作はなぜか好き!!
作品全体の雰囲気も幻想的で、ノスタルジックで、
短編にしておくのがもったいない良作だったと思います☆
このプロットをもっと広げて単行本にして出してくれないかな?

返信です。

>まかろんさん

返信ありがとうございます。
そう言っていただけるとレビューを書いた身として嬉しい限りです。
『さよならカストール』よかったですよね。
何度も読むうちにどんどん新しい面白さが発見できる作品だったのではないかと思います。

現時点で感想を書くのは荷が重いという感覚は、私にも覚えがあります。
私の場合は特に長編が露骨に苦手なので、『ささめきこと』とか『青い花』とか、
百合作品の有名どころでもしばらく時間を置いてから触れるようにしていました。
人によって感想が書きやすいものと、そうでないものがあるのかも知れませんね。
あと私は一つの作品をざくざくと掘り下げていくのは慣れていても、
多くの作品についてそれぞれの魅力を語るというのはできないので、
そういった点いついてはいつもまかろんさんが羨ましく思われます。

「友情」は「恋愛」より下位に置かれがちな気がしますが、
本作のように並立して描いていく作品が私は結構好きですね。
私も短編にしておくにはもったいない作品だったと思います。
ただ一方で、20ページ余りにあれだけの面白さを詰め込むことに成功していたのに、
単行本一冊分を書いたら一体どうなってしまうんだろうという不安はありますw

この話の後の二人については本当に気になるところですよね。
一つ思うのは、七瀬と陽菜の二人が今後「友達」で居続けるとしても、
それは決して「友達止まり」というようなものではないのだろうということです。
「友達止まり」と言うときには、「友達」が何か他の関係より劣るものと考えられていますが、
そうではなくて、それ以上のない「友達」として二人は在り続けるのだろうなと思います。
ただ他方で、二人が「恋人」になるのだとしたら、ということも考えると面白そうです。

『SAKURA』はまだ始まったばかりなので、今後の展開に期待していきたいですね。
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