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夕焼け色 (さよなら絶望先生:短編)

2012.06.24 19:22|さよなら絶望先生
ものすごく昔に書いた二次創作が発掘されたので晒しておきます。
一言で言って、木野くんと加賀さんのお話です。
その組み合わせは許せないという方は見ないことをお勧めします。
115話の木野くんの告白の後を想像し、自分なりに補完したものになっています。

興味がある方は、追記からどうぞ。(8000字程度)




夕焼け色


 愛は硬直していた。どうしていいか分からなかった。この状況を何とか打破するために、懸命に口を動かすのだが、上手く言葉にならない。ただぱくぱくするだけである。それでも時々、その動きが声に変わることならあるにはある。しかし、それも「あの」とか「その」とか、いかにも気の弱そうな小さい主張で、結局成す術がない。目の前で薔薇の花束を差し出ている同級生に対して、彼女は言うべき答えを知らなかった。

「ダブルバインドで身動き取れないんです」
 ダブルバインド――可符香はその状況を見てそう表した。
「はっきり言わなければ伝わらないけど、きっぱり断ったらむしろ好意を抱いていると思われる。恋のダブルバインドですよ」

 もちろん、そう言われていることを当事者の愛と、国也が知る由はない。二人は望や可符香、その他同級生たちにさえ気づかないほど手いっぱいだった。特に愛は、普段ならば迷惑にならないようにコマから外れるべきところを、ばっちり映ってしまっている。動転していた。国也の告白が、あまりにも唐突だったために。

 国也が愛の告白をした今日は十月三一日――ちょうどハロウィンの仮装で街がにぎわう日だった。それは子供が「トリック オア トリート」という言葉をもって、(一部の)大人をダブルバインドに陥らせる祭典でもある。そんな日に、愛にダブルバインドを引き起こさせる国也の告白は、どうみてもタイミングが良すぎではあるが、しかし彼は真剣だった。告白の一瞬に掛けていた。青山や芳賀に急かされた結果、自身でいろいろ思い悩んで花束を買い、愛を告げる文句も寝ずに考えて、ついに今日を迎えたのである。六月、掃除当番を代わってもらった際に言われた一言で悩殺されてから、ずっと想ってきた彼女へ、やっと叶った告白だった。

 しかし国也が告白してから、ずっと膠着状態が続いていた。愛は少し蒼ざめた顔をして、ずっと目を泳がせたまま固まっている。国也は薔薇の花束を差し出したまま、ただ一点、愛の瞳の中だけをじっと見つめて待っている。そんな状況のまま、一体どのくらいの時間が経過しただろうか。すでに日が大分西に傾いていた。もう望や可符香もいなくなっている。僅かに残っていた校舎の人影も一つ、また一つと減っていき、じわじわと静寂の冷たさが漂い始める。それでも国也は愛を急かすようなことは何もしなかった。例えこのまま日が沈んだとしても、いつまでも答えを待ち続ける――眼にはそのくらいの意志が感じられた。しかしその強い意志の一方で、彼の瞳は明らかな不安と緊張の色を含み、潤んでいるようにも見えた。

 愛は相変わらずピカチコンと固まったまま探し続けていた。――断る言葉を。答えは決まっていたのである。

(でも私なんかが断ったら迷惑をかけますよね……)

 しかし彼女は可符香の言う二重拘束よりむしろ、その加害妄想により返答の邪魔をされていた。どうやって断るのが、最も彼に迷惑をかけないで済むか。それを考えてみるのだが、何度考えても結局迷惑をかけてしまうことには変わりないという結論に到達してしまう。失恋の痛み。自分の言葉によって彼をつき放し、苦悩させ、傷つけることになると思うと耐えられなかった。それは、愛にとって、自分のせいで迷惑をかけること以外の何物でもない。だから愛は、答えられない。でも、答えなければならない。あまりにも真剣な表情を見せて告白してくれた彼には、いつまでもおどおどして答えない自分を気長に待ち続けてくれる彼には、自分も真剣な気持ちで向き合わなければならない。愛はそれを知っていた。

「あの、その」

 それでも上手く答えられないのは何故だろう。愛は自分の気質を心から憎んだ。このまま待たせ続ければ、その方が迷惑になってしまうだろう。彼はその間ずっと待ち続けなければならないのだから。しかも結果、彼が聞くことになるのは断る宣告……。八方ふさがりである。伝えても迷惑をかけてしまうし、伝えなくてもなお迷惑になる――加害妄想による、ダブルバインド。

「すいません! 私が悪いんです」

 ついに愛はそう叫んで、校舎の外へと逃げ出してしまった。すいません、すいません……。その声と、規則正しい小さな足音だけが冷たい廊下に響き渡る。だがそれも次第に聞こえなくなった。残されたのは、夕日の赤と影の黒に染まりつつある再びの静寂の空間だけだった。その中心で、国也は呆然と立ち尽くす。急に張りつめた緊張から解放された脱力感と、当然の愛の逃亡への仰天によって。しかし数秒で我に返った。聞かなければならないことを、まだ聞いていない。

「待ってよ!」

 もう姿の見えない愛に向って、聞こえるはずのない言葉を吐きだして追う。けれども二三歩だけ走って、再び立ち止まってしまう。異様に足が重い。おそらく、先ほど呆然とした原因は、聞きたくない答えが返ってこなかったことへの安堵感でもあったのだろう。そこから足を踏み出すのは、当然怖い……。しかし心の深淵では、そんな女々しい心配よりも真意を聞きたいという意志の方が何倍も勝っている。

「待ってよ……」

 もう一度言う。もしかしたら、その言葉は愛を引き止めるという駄目元の目的のためではなく、彼自身を鼓舞する目的で自然と出た自分への言葉だったのかも知れない。

(このままでいいのか……)

 彼女がどこへ駆けて行ったのか、それは分からない。しかし国也は見つけなければならなかった。薔薇を、乱暴に放る。告白には必要だったけれど、彼女を見つけ、返事を聞くのには必要ない。薔薇は地面に落ちると同時に何枚かの花びらを辺りにばらまいた。それは一つの決意だった。



 国也が下駄箱から外へ走り出たときには、すでに赤々と燃える夕暮れの太陽が、視界に入る全てをすっかり紅に塗りたくっていた。空に浮かぶ鰯雲も、校庭に引かれた石灰のラインも、学校の花壇に植えられたコスモスの花も、みな一様に薄赤い。

 ――夕日はいつだって美しい紅色だけど、そこに必ず一抹の寂しさを感じるのは何故だろうか。……もしかすると、寂しさが共存しているから、夕日の紅は美しく見えるのかも知れない。仮に絵の具で夕日の色を作って、キャンバスに夕日を丁寧に描いても、実物ほど胸を締め付ける美しさを持ちはしないだろう。実物には、もうすぐ暮れて見えなくなってしまうという別れの、終わりの色がある。その寂しげな色があるからこそ一層美しく見えるのではないだろうか。共存する美しさと寂しさ。不思議なほどそれは愛おしい。

 国也は内心焦って足を速めた。胸を打つ優美な紅葉の後に、必ず葉は散り冬がやって来るように、心を動かす綺麗な夕日の後には、必ず深い夜の闇がやって来る。それまでに見つけなければならないと思っていた。もちろん、手がかりも何もない状況でそれは至難の技かも知れない。しかし国也には、それまでに見つけられるという自信もあった。彼女だけを、この数か月ずっと見続けてきたのである。彼女だったら、どこへ行くか――
 商店街を一直線に駆け抜ける。すでに、夜ハロウィンを楽しむために仮装する子供たちやコスプレーヤーたちが目立っていた。ここじゃない。そう思って国也は閑静な住宅街のある方角へと向かった。

 やがて小さな公園が見えてくる。しかしそこには誰もいないようだった。ベンチもブランコも空いているし、砂場にも人影は皆無である。ここでもない。
 そう決めつけて、公園を横目に通り過ぎようとしたときだった。ふとブランコが、風に揺られて高い金属音を一度だけ立てるのを国也は耳に捕らえたのは。もう一度だけ、公園へと目を向ける――



 愛は一本の銀杏の木陰に立っていた。辺りに他に人はいない。本来ならば、夜がハロウィンの本番なのだから、辺りに魔女やミイラ男が数人いてもおかしくない。しかし愛は自分がいると迷惑をかけてしまうという意識のために、そういった人々を避け続け、誰もいない場所を探し続けたのである。その結果、奇跡的に人気のない場所を見つけ出すことができた。

(ああ、結局迷惑をかけてしまった……)

 そしてそこでずっと悩んでいた。思わず逃げてしまったが、すぐに湧いてきたのは果てしない後悔と自責。銀杏の木に寄りかかると、申し訳なさにため息が白く出た。何をやっているんだろう。

 国也からの告白が、嬉しくないはずはなかった。人に好かれるというのは温かい。けれどもそれ以上に、愛の場合には不安や恐怖を抱いてしまった。自分が彼と付き合ったら、今まで以上の迷惑を彼にかけることになるという加害妄想は、愛の中では確かなことで、ただ恐ろしい未来でしかない。それをどうしても避けたかったのだ。
 風が僅かに吹き出してきた。ただでさえ空気が冷たいのに、愛はわざわざ日陰にいるのでなおさら寒い。両手を
息で温めながら、これからのことを考える。だが結局堂々巡りだった。もうすぐ日も暮れてしまう。

「おーい」

 そのとき右手の方から歓喜と安心を混ぜ合わせたような声が聞こえてきた。すぐに木から背中を離し、その方角へと顔を向ける。小さなブランコの向こう側から、今までずっと考えていた少年が駆け寄って来るのが見えた。国也だった。彼は愛のすぐ近くまで来ると、膝に手をついて呼吸を整え始める。肩で息をしていた。

「すいません! 私なんかのために走らせてしまってすいません!」

 何度も頭を下げる。もう罪悪感でいっぱいだった。

「いや、いいよ。でも何でそんな、目立たないところに、いるんだよ?」

 早いテンポで幾つも呼気を吐きだしながら言う。愛は近くに無人のベンチがあるのにも関わらず、わざわざ銀杏の大木の影にいて、紅く暗くなり始めた公園の中では目を凝らしても確認するのは難しかった。見つけることができたのは本当に偶然である。

「私なんかがベンチに座っていたら誰か来たときに迷惑になります! ……それに私なんかが日向に出ていたら、夕日に照らされた公園の綺麗な風景が汚されてしまいます!」

 すぐに愛は答えた。一体、誰に対しての加害意識だよ――そう国也は少し呆れて思ったが、口には出さないでおいた。今思えば、彼女のそういう性格も含めて、一層愛おしく思うようになったのかも知れない。馬鹿みたいだが、それは真実だと思う。

「すいません、迷惑でしたよね……」
「迷惑じゃ、ないから」

 間髪を入れず、優しく諭すようにその言葉だけは伝えてから、今度は間を置き、息を整えて、

「さっきの答え、教えてくれない?」

 と静かに言う。国也自身が驚くほど、それは落ち着き払った声だった。
 愛は少し躊躇った。しかし、学校の中でダブルバインドに陥ったときとは違い、あくまで少しの間である。しばらくあちこちに視線を動かしたり、「あの」や「その」を繰り返したりしていたが、そのうち覚悟を決めたらしい。先ほどの国也の言葉の効果だったかもしれない。目をまっすぐ見て数秒後。

「ごめんなさい……」

 言って愛はすぐに後悔した。散々焦らしておいて、最後に結局そんな答えを与えるなんてひど過ぎる。自分を責めた。すいません、すいません、すいません……。もうほとんど泣きそうだった。

 国也はそっか、とだけ呟いて微笑した。苦しい笑顔。すぐに無表情に戻ってしまって、さっき取り残されたときとは比にならない脱力感に襲われた。その場にぐったりと座り込みたいという衝動さえ起こる。しかし目の前の愛が溢れんばかりの涙を貯めていることに気づくと、そんなものは吹き飛んだ。なけなしのプライドを奮い起して、努めて明るい、冗談っぽい声をひねり出す。

「じゃあ、理由だけ聞かせてくれないかな?」

 気まずい沈黙を破るために口をついて出たそれは、冷静になって考えてみればひどく恰好の悪い問いかけだったかもしれない。しかし何も国也は、その質問で愛を問い詰めたり、咎めたりするつもりではなかった。ただ、自分の真剣な恋心をきちんと終わらせるために、そう聞いておくことが必要だと思ったのである。相手が何を思って断ったか知ることができれば、未練なくきっぱりと想いを断ち切ることができる。真剣な慕情だったからこそ、聞いておきたいことだった。

「私は……」

 そこまでで言葉が止まった。愛はきょとんとして、首を傾げる。断った理由はもちろんある。しかし、それを伝える前に、愛にはどうしても聞いておきたいことがあった。というより、聞きたいことが生まれた。どうしてもそれを今聞かなければならない気がするのである。それは何だか不思議なことに思えた。またはっきりと答えない自分を戒めながら、愛は消え入りそうな声で呟く。その言葉は口から思わず零れ落ちたもののように思えた。

「じゃあ私……私からも一つ聞きたいことがあります」

 迷惑なのは分かっている。でも――

「どうして……私なんかを好きになってくれたんですか」

 愛は誰よりも加害妄想が強い。いつも自分が誰かに迷惑をかけているのではないかと疑い、ちょっとしたことで自分を責め、人に謝る。そんな愛にとって、告白されるなんて考えたこともないことだった。自分がいたら迷惑になると常に考える少女にとって、自分がいることによって喜びや嬉しさやときめきを覚えてくれる人がいるということは不可解だった。分からないのに、自分の断った理由だけを話すのは一方的であるような気がするのである。

 国也は長く息を吐く。煙のように白かった。

「最初は些細なきっかけだったんだ。でも、それから教室で一緒に過ごすうちに変わってきたよ。全部の表情が好きになったんだ。いつでも人に迷惑をかけないように気を使い過ぎるところとか、何でもないことで人に本気で謝るところとか、全部、全部……」

 久藤なら、もっとまとまった綺麗な言葉でこの気持ちを表すだろうか――国也はふとライバルの少年を思ってはにかんだ。自分にはあまり気の利いた台詞を言うことはできないが、率直な感情は伝えることができたと思う。だから、もういいんだ。

「でも私は……駄目な人間です。いつも人に迷惑ばかりかけてしまいます。そんな私と付き合ってしまったら、きっとあなたに今以上の迷惑をかけてしまいます。さっきみたいにすぐに逃げ出します。隣にいるだけできっと迷惑をかけます」

 手をぎゅっと握る。夕日の照らす赤土の上に落ちている落葉を見つめていた。

「だから……付き合うことはできません。……すいません」

 落葉は風もないのにころころと転がっていく。
 愛は言ってから、氷を胸に抱きしめたような寂寥を覚えた。国也の視線を感じるけれど、その目を見ることができない。とても心が痛かった。こういう感情を抱いたのは、おそらく初めて。断るのが辛い。彼の気持ちの真剣さが痛いくらいに伝わってくるから。

「いいじゃんか、そんなの」

 でも、本当にそれだけだろうか。

「いいんだよ、そんなの。おれだって色んな人に迷惑なんて沢山かけるよ。お互い様だろ、それは。それに、仮にどんなに大きい迷惑をかけられたとしても、おれが好きなんだからいいんだよ。だから、そんなの……断る理由にはならないんじゃないかな」

 国也の一言一言に、胸に抱いた氷がずき、ずき、と刺を出す。この痛みは何だろう。自問して、考えて、ようやく胸の内にある一つの感情を見つけ出した。自責でも自戒でも、国也への申し訳なさでもない。いっぱいの嬉しさ。国也の気持ちに、嬉しいと素直に思っている自分が、愛の心の根底に確かにあったのである。

 愛の気性は加害妄想と呼ばれる。いつも止めるように注意される。愛はそのため、一層自分が人に迷惑をかけていると思い込むようになった。しかし、国也は、そんな愛の迷惑な気性すら、好きになったと言ってくれたのである。全てを好き、なんて言われて、嬉しくない人なんかいるものか。その言葉によって愛は、一つの温かな想いをきっと抱いた。いや、本当は気付かないだけで、もっと前から抱いていたのかもしれない。しかし、それを裏切って嘘をついていた。
 嘘をつくのは、誰だって辛い。

「ごめん、何かかっこ悪いよな」
「いえ。……ないのかも知れません」

 言葉を遮る、はっきりした愛の言葉。え、と国也はきょとんとした声を出す。
 ようやく分かった。躊躇いのわけ。胸の痛みのわけ。今、本当の気持ちを伝えよう。もちろんそれは、彼に対して最も迷惑な選択になるかも知れない。しかし、まっすぐに自分を見つめてくれる彼になら、少しだけ、ほんの少しだけ、甘えてもいいんじゃないか。愛は、思った。

「断る理由……本当はないのかも知れません」

 国也の目が大きく見開かれた。すぐに愛はもじもじして俯いてしまう。その頬は、僅かに紅潮して紅をさしたようだった。

「あの」
「あのさ」

 急に、秋風が横薙ぎに吹きつけた。そして愛のスカートをひるがえし、地面の砂や落ち葉を攫い、銀杏の樹をばさばさとかき乱していく。愛はスカートを押さえ、国也は目を片手で庇った。目を開けられないほどの嵐である。しかしそれは一瞬の嵐で、公園全体へと叩きつけるように吹いてから、すぐにどこかへと行ってしまった。それから二人が目を開けると、高木から銀杏の葉が二人の周りに何枚もひらひらと舞っていた。その光景の美しさに思わずため息が漏れる。二人ともぼんやりと落ちていく葉を眺めていた。そのうち、一枚の銀杏が目の前に踊るように降りてきたので、愛は両手を使って受け止めた。紅い銀杏の葉。上方に広がる樹枝に目をやると、枝にいっぱいについている銀杏の合間から、僅かに夕焼け色が射しこんでいるのが見えた。柔らかい光だった。

 愛はそれ以上何か語ったわけではない。しかし国也には、彼女がどういう気持ちで言ったのか、何となく悟った。そのときの愛の目に、映されている気がしたのである。彼女の目は、いつものように自信なさげではあったが、同時に真剣そのものだった。今まで以上に真面目な眼差しだった。

 ほとんど無意識に、国也は小声で言う。嬉しさと驚きで、半ばぼんやりしていた。しかし、はっきりと、たった五文字。
「ありがとう」

 その瞬間、俯いていた愛は表情を一転させ、きっ、と国也を鋭く見た。口をきつく結んで、目を少し潤ませて、答える。


「べ、別に、あなたのために言ったんじゃないんだからね!」


 そして夕焼けの公園から脱兎の如く飛び出して行く。

 だが国也に彼女を追うことはできなかった。時間が止まってしまったかのように、銀杏の下で固まっていた。胸が早鐘を鳴らしている。愛のその言葉、その仕種は反則だった。国也が我に返ったときには、すでに愛の姿が紅い風景の中に小さくなってしまっていた。

 その姿を認めたとき、国也は悟った。彼女は夕日のような人なのかも知れない、と。自分の存在を常に迷惑でないかと疑ってしまうのは、どうしようもなく哀しい、寂しい性格である。しかし、そこに純粋な美しい色も確かに共存している。人に迷惑をかけないようにと、自分を差し置いて人のことを真っ先に考えられる優しさ。その色は、その純粋さは、間違いなく彼女だけのものだった。それを国也は愛おしく思う。夕日の紅のように、美しさと寂しさが共存する少女……。

 そんなことを考えて、やはり深く愛に惚れているんだということを再び確信して、嬉しさと恥ずかしさに少しだけ笑った。もう体ははっきりとした晩秋の寒さを感じているはずなのに、何だか温かい。これを、何と呼べばいいだろう。

 最後の言葉を放ったときの夕焼け色の彼女の顔が、いつまでも、心から離れなかった。


おしまい



自分で読み返してみると、懐かしいやら恥ずかしいやらで、微妙な気持ちになります。
自分なりに考えた加賀さんの魅力を、表してやろうと当時躍起になっていた覚えがあります。
最終話の花嫁姿も異様に可愛かったので、家でしばらく悶えていました。
私のような可符香教徒でも、あの表情はやられてしまいます……!

それでは、ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

テーマ:二次創作
ジャンル:小説・文学

コメント

「わかば色のルーフトップ」研究が急務と判明しました

全てにおいて素晴らしいこのブログ。「絶望先生」関連だけでこんな時間になってしまいました。記事、コメントへの返信に至るまで、もはや、「わかば色のルーフトップ」は研究対象の域に達していますよ。これは、かなり時間がかかりそうです。拍手機能がバーストするほどの礼賛を。リンクに追加させていただきました。頻繁に足跡残るかもしれませんが、気にしないでやってください。では少し眠ります。

返信です。

>TOKYO-DEADさん

そんな風に言っていただけるとは、私は本当に果報者です。
実際は未熟なところばかりですので、何かよく分からない点などありましたら、
遠慮なく指摘、批判していただければと思います。
こちらこそ勉強させていただきます。

私も訪問させていただいて、時折記事を読ませていただきますね!
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天秤

Author:天秤
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アニメや漫画など、好きなものについて考えたことを書き込みます。
よろしくお願いいたします。

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