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「笑顔のヒミツ」の正体 (アイカツ!第五十四話考察)

2013.10.26 15:04|アイカツ!
KIRA☆Power/オリジナルスター☆彡KIRA☆Power/オリジナルスター☆彡
(2013/10/23)
STAR☆ANIS

商品詳細を見る

二年目のOP/EDを収録したCDが発売されました。
個人的には『オリジナルスター☆彡』が、アイカツそのものを歌った曲で、
どことなく『カレンダーガール』を思い出させるためにお気に入りです。
同曲を使った54話のステージは結構はしゃぎながら見ていました。
何てことない毎日に全力で臨んでいくというテーマが好きなのかも知れません。

さて、54話「笑顔のヒミツ」が放送されました。
意外性のある良い表情とはどういったものなのか、いちごたちはセイラたちと一緒に考えます。
サブタイトルで言われている「笑顔のヒミツ」とは何だったのか。
そういったことを考えながら見直してみると、面白い一話であったと思います。
それも含めて以下、54話を見ながら考えたことを順番にまとめていきます。



○『アイカツ!』54話:「笑顔のヒミツ」の正体


(1)いちごとかえでの関係について

まず、宣材の撮影で、蘭がミューズになったことが話に出てきます。

あおいの映画にせよ蘭のミューズにせよ、いちごがアメリカに行っている間に、
居残り組も何かを達成したことが分かりやすく仄めかされていますが、
個人的にはかえでが何をなしたかということに関心があります。
いちごとかえではお互いに影響を与え合った仲なので一層、
かえでがいちご不在の日本で何をしていたのかということが気になるのです。

「お互いに影響を与え合った」とはどういうことかというと、船上ライブの際、
いちごはかえでにアメリカでのアイカツと「自分を信じること」を学んで、
その影響もあって後にアメリカに行くことを決心しました。
対してかえでも、いちごにアメリカのものとは異なるアイドル活動を学んでいたと考えられます。
49話で、かえでは舞台裏の和やかな雰囲気が、日本に来て一番驚いたことだと述べています。

「でもなんか面白いね。きっと集まってくれてるお客さんたちは、
 中でこんなこと話してるなんて、思ってないよ」
「確かに!」
みんなこういうときでもマイペースって言うか、仲いいよね。
 アメリカから来て一番びっくりしたのってそれかも」
「いちごが噛んだから空気ゆるんじゃったのよ。ゆるんゆるんにね」
「まあ、今日もお客さんに最高に楽しんでもらおうね」
「うん、みんなでステージに立ててうれしい!」
「誰が勝ってもうれしいと思う!」 (49話)


かえでが学んだアイカツ、その中心にいたのが他ならぬいちごでした。
実際にこの後、かえではいちごに号令をかけさせています。
かえではいちごに大きな影響を与えましたが、
いちごもかえでに大きな影響を与えたということがここから分かります。

ゆえに、アメリカに行って一回り成長したいちごに対して、
かえでがどのように成長したのかということが気になるのです。
今後かえでにスポットを当てる話が、何だかとても楽しみになりました。


(2)あおいときいの違い

次に、五人がプリクラで合流した後の場面に注目してみましょう。

「で、どうして私たち一緒に歩いてるんだ?」
「プリクラ撮ってたのは、今度のフォトセッションのためでしょ?」
「もちろん! ずばり意外性のある表情を研究するため!」

「「どうすればファンの人たちに喜んでもらえるか!」」 (54話)


あおいときいが似た者同士なのは、声を揃えるこの場面からも分かりますが、
現時点ではアイドルとプロデューサーという立場の差異が、二人を分かっていると思います。
つまり、あおいは「アイドル」としていちごと一緒にファンに向かいますが、
きいは「プロデューサー」としてセイラと一緒にファンに向かいつつ、セイラにも向かいます。
53話の最後に、納得のいかないセイラに向かう、プロデューサーとしてのきいを見出せます。

「あたしの音より、星宮いちごの音の方が弾んでた。
 きらきら光ってて。だから私、勝ってない」
「セイラ……。きい、もっと頑張るね!
 それでセイラのこと、うーんと、プロプロプロデュースする!」
「頼んだよ! プロデューサー」
「うん!」 (53話)


こういったアイドルに向かう姿勢は、プロデューサーだからこそであると思います。
ここにおいて、あおいときいには違いが生まれているのではないでしょうか。

また54話の後半で、それぞれの好きなことが取り上げられますが、
そこでもあおいときいの違いが表れていると思います。
物語中では、いちごのパフェ、セイラの音楽が取り上げられていましたが、
写真を見る限り、他のメンバーの好きなこととして挙げられているのは、
蘭がコーディネート、あおいがアイドルの撮影、きいがデータの処理辺りです。
あおいときいは似ていますが、好きなことの重心は少し異なるのかも知れません。


(3)「いちごファン」のノエル

さらに、セイラの家に行ったときのことを取り上げます。

うわ~、またいちごちゃんが来てくれた~!
「よかったわね、ノエル」
「うん!」

「ここセイラちゃんのお家なんだ」
「ああ」
「きいも初めて来たー! わあ、すてき!」
「うん!」 (54話)


あおいや蘭が店に初めて来たのにも係らず、そのことを取り上げずに、
「またいちごちゃんが来てくれた~」と言ってのけたノエルは、
アイドル好きというよりいちご好きな印象を受けます。

この辺りらいちと差異化されているだけでなく、らいちの穴を埋めているようにも思います。

というのも、らいちは家族補正がかかっていて、
いちごに関しては他のアイドルと異なる見方をしている嫌いがあります。
これがあるために、22話などでいちごが尋常でないアイドル力を発揮したときに、
いちごをアイドルと認めるという固有の役割を担うことができるのですが、
他方で彼を「いちごファン」と言い切るのは少し難しいと言えます。
らいちは、いちごをアイドルとしても見るけれど、いちごファンではないのです。
それに対してノエルは、らいちとは異なった「いちごファン」の視点で、
いちごを見ることができるような気がします。

いちごファンとしては既に駆やりおんが登場していましたが、ほぼ一話限定の登場でした。
ノエルはおそらく継続的に物語に関わってくるので、いちごとノエルの関係を通して、
アイドルとファンの関係が掘り下げられていくといいと思います。
今後そこも一つの見所になるような気がしています。


(4)「アイドルの楽しい」が「ファンの楽しい」へ

今度は、カフェでのあおいの発言を引用してみます。
ここで、特にセイラにとっては重要なことが示されています。

「みんな思いがけないいい顔になるのは、好きなことをしているとき」
「うん! そうかも! 私パフェ見るだけでわくわくしちゃうし!」
私たちの心がわくわくしてれば、
 撮影してくれるファンのみんなもきっと楽しくなってくれる!」 (54話)


この部分でのあおいの発言は、前回に示されたことを補足しています。
53話では最後に「楽しむことが一番大事」ということが提示されましたが、
何故楽しむことが大事なのかというと、それを見てファンも楽しくなるからなのです。

だからこそ、アイドルの務めとしてファンを楽しませることを考え、
相手よりも多くのファンに喜んでもらおうとするセイラの姿勢に対して、
いちごの楽しむ姿勢がもう一つのアイドルの姿勢として提示され得るのです。
いちごはアイドルの務めや勝利することをあまり意識していません。
けれども、そうして深く考えず、純粋に楽しむ姿にファンは惹きつけられます。
「アイドルの楽しい」が、「ファンの楽しい」に繋がるのです。
そういったテーマが改めて強調されていたと言えるように思います。


(5)「笑顔のヒミツ」の正体

最後に、物語全体のテーマを考えてみたいと思います。
サブタイトルにある、「笑顔のヒミツ」とは結局何だったのでしょう。

最終的にいちごの言うように、フォトセッションでパフェを食べたわけではないので、
54話の中で「笑顔のヒミツ」として強調されたのは、
「好きなことをしていること」というより、
「仲間と一緒であること」であったと考えられます。

仲間と一緒であるからこそ、いちごたちは最高の笑顔になれるのです。

54話では、セイラもこの、一緒であることのパワーに気付いています。
最初に何となく感じ取るのは、五人がプリクラで合流した後の次の場面です。

「じゃあ、一緒に考えよう!」
今の声……音が弾んでた
「ほんと?」 (54話)


ここでセイラは、いちごの声を「音が弾んでた」と表します。
誰かと一緒にアイカツをしようとするときのいちごのわくわくした気持ちを、
セイラは弾んだ音として聞き取ったのでしょう。
そして物語の後半でも、セイラは綺麗な音を聞きます。

音が重なってる。ハーモニーが広がってく
「え?」
「つまり、あなたたちは三人でいるときが一番いい顔ってこと、でしょ?」
「うん」 (54話)


ここでセイラは、誰かと一緒であることのパワーを確かに感じ取っています。
だからこそこの後で、仲間と一緒にステージに立つことを考え始めるのです。
「あなたがドならわたしはレ」から直接導き出せない考え方が、セイラに芽生えています。

結論として、写真撮影というアイドルの代表的な仕事を材料に、
二つの意味で「仲間の大切さ」を描いたのが54話であったと思います。
自分では気づけない魅力的な表情に気づいてくれる仲間。
自分を最も魅力的な表情にしてくれる仲間。
そういった大切な存在として、仲間が描き出されています。
この点、久々にソレイユ三人のライブシーンが添えられるにふさわしい、
「仲間がいるから輝ける」ということが改めて描かれた回であったと思います。


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テーマ:アイカツ!
ジャンル:アニメ・コミック

新しい「定位置」への一歩 (百乃モト『レイニーソング』)

2013.10.25 17:56|百合作品
レイニーソング (IDコミックス 百合姫コミックス)レイニーソング (IDコミックス 百合姫コミックス)
(2013/10/18)
百乃 モト

商品詳細を見る

彼女→彼女へのラブソング こぼれる想いを詰め込んだ読切短編集 (帯より)


百乃モトさんの短編集『レイニーソング』が発売されました。
前作『キミ恋リミット』からおよそ三年、高校生のみずみずしい青春な話から、
社会人のしっとりした大人な話までそろった作品になっていたと思います。
今回はその中でも特に、「或る少女の群青」を中心に紹介していきます。
これは、高校生の鈴(すず)と、大人の知見(ちみ)が対照的に描き出される、
『レイニーソング』を象徴するような物語になっています。



○「或る少女の群青」:新しい「定位置」への一歩


「或る少女の群青」は、高校一年生になったばかりの鈴が、
一組のカップルを何となくいいなあと眺めているところから始まります。
高校への通学のために、毎朝使っている電車に必ず乗り込んでくる二人。
決まって自分の正面に位置取る「特別な関係」の彼女たちを、
電車での定位置に腰かけて観察することが鈴の日課になっていました。
二人の会話を聞いているだけで、何となく幸せな気分になって一日が始められるのです。

しかしある時、ふとしたきっかけでそのうちの一人、
知見に声をかけられて――というところから物語は動き出します。
そこから、知見とその恋人・江里が二人でいるのを見るのが好きだったはずなのに、
どんどん知見に惹かれていく自分に鈴は気が付きます。

鈴は自分の内にある二つの感情の間で揺れ動くことになるのです。

あたしは二人を見ているのが好きなだけで

――違う違う! 私のは憧れだもんッ!!
「……憧れ」

キスとかする仲で 二人はちゃんとつき合ってて すごくお似合いで

――知見さんと仲良くなれたからって… 優しくしてくれるからって…

知見さんには江里さんがいるのに (27-28ページ)


そんなとき、鈴は知見が江里と破局したということを知ることになります。
いつも自分の座る席の正面を埋めていた二人は、今や一人になってしまいました。
それを半ば諦めて受け入れている知見に対して、全然納得できない鈴。
この辺りに、大人である知見と、子どもである鈴の対比が見出せます。
そして、やがて溜め込んでいた鈴の感情が、知見の前で爆発してしまいます。

「あたし 知見さんを一人にしたくない」
「え?」
「あたしとデートしてください!!」
「!?」
「あたしで良かったら知見さんの見たかった映画
 一緒に行きましょう!? 日曜日でも いつでも いいですから」
「ちょ なに……… 鈴ちゃ……」
「江里さんとできなかったこと いっぱいしましょう!?
 あたしは絶対に知見さんを一人にしませんから!! あたしなら…
 あたしなら知見さんのことずっと大好きでいられますから…!!!
 大丈夫ですから……!! 明日の朝 返事くださいねッ!!」

「大丈夫って… なにが…… …鈴ちゃんは… 眩しいな」 (39-42ページ)


この鈴の告白で物語はおしまいです。
この後、知見がどのような返事をするのか、想像の余地を残す終わり方になっています。
その意味で「或る少女の群青」は、いわゆる「続きが欲しい」作品なのですが、
その続きは作中の表現によって、ある程度は仄めかされているように思います。
今回は、そうした表現に注目して、そこから想像を膨らませてみることにしましょう。

まず、上記の引用で知見は、鈴を「眩しい」と言っていますが、
その直前で鈴も知見のことをそう述べています。

高校1年の通学ラッシュは毎日が燦々としていて
知見さんが一人になってもそれは変わることはなくて
それどころか眩しすぎてもうまともになんか見てらんない (38-39ページ)


この独白は、江里が知見の隣からいなくなっても、変わらずに毎日が燦々としていることから、
鈴が、自身の知見への好意に改めて気が付いたことを示すものとして取ることができます。
知見と江里を見ているのが好きだから、毎朝が楽しい。
そういった理由で否定した知見への好意が、ここで改めて前面に飛び出てきているのです。
そこで、知見が鈴について述べたのと同じ表現が使われていることは重大です。
二人は、破局について全く逆の受け止め方をしており、
ここにおいて大人と子どもという差異が明確になっているものの、
お互いに対して抱く印象は、「眩しい」という同じものでした。
ここに、鈴と知見が一緒にいる未来を見出すことができます。
最後の最後に知見が鈴を「眩しい」と言ったとき、二人は既に隣に並んでいるのです。

次に、「電車での定位置」を使った暗示に注目します。
この作品では、冒頭より朝の電車内の定位置が強調されています。
席に座っている鈴の正面に、知見と江里の二人が隣同士で立つ。
この位置取りがそのまま、三人の関係を示していました。
知見と江里は恋人で、鈴はそれを観察する立場にある。

知見と江里の破局は知見を一人にして、この三人の関係を変えていくことになります。
そして、どのように変わっていくかという問題のヒントとなるのが、
江里が不在で、鈴と知見が二人きりで出会ったときの「定位置」の変化です。

以下の場面では、知見と江里はまだ別れていませんが、
江里がいないときの二人の定位置の変更は、江里がいなくなった場合に、
鈴と知見の関係が如何に動いていくかということを暗示していると思います。

「って…あれ? 知見さん一人…」
「あー…うん 江里 遅刻…かな?」
「………そっか… ほっ」

――ん…? ほっ?

「それよりなんで無視してたの?」
「!!! 無視とかそんな…!! えっと…
 二人の邪魔しちゃ悪いかなぁ~とかおもって…」
「なにそれ もう… そんなの気にしてたのかぁ
 良かった… 私 鈴ちゃんに嫌われたのかと思って…」
「そんなわけないじゃないですか!!」
「寂しかったよ もぅ!」
「あ あ…! 隣空きましたよ! どうぞ!
「ありがと! 席空くなんて珍しいねー」 (23-25ページ)


ここで鈴は、普段江里の隣に「立っていた」知見を、自分の隣に「座らせる」のです。
恋人と別れて、ただ一人電車の中で立つことになった知見への先の告白は、
それだけだと「前恋人の代わりになる」という主旨と取ることもできます。
しかし途中のこの暗示が、そうではないことをそれとなく示しています。

すなわち、江里が珍しくいなかったあの日、知見を隣に「座らせた」鈴は、
告白の後、おそらく彼女の隣に「立つ」ことになるのではありません。
そうして前恋人の定位置を自分が埋めるのではなく、
知見を「座らせ」新しい定位置に引っ張りこむのだと思います。

この場面の定位置の変化が、これからの二人の新しい関係を仄めかしています。
鈴は映画の代わりに買い物に行きたがっていた江里とは異なり、
知見と一緒に、彼女の見たがっていた映画を見に行こうとするのです。

結論として、作中の「眩しい」という表現、江里がいないときの「定位置」の変化を鑑みると、
鈴の告白は、二人が隣に並ぶ未来、新しい関係へと至る未来へ繋がると想像できます。
それはいわば、知見の隣という「新しい定位置への一歩」だったのです。



「或る少女の群青」の表現に関しては以上です。
「眩しい」という表現や「電車での定位置」という道具を使って、
二人の関係のこれからをやんわりと仄めかして見せるところが秀逸で、
いわば上質な小説の読後感をもたらす作品だったと思います。
読み直して色々と考えて、一層好きになるタイプの作品です。

個人的には百乃モトさんと言えば、「或る少女の群青」もそうですが、
「二人の恋愛を眺める主人公」という構図の物語が特徴的です。
けだし、その中の「見る主人公の心情」に光るものがあります。
『レイニーソング』で言えば、「スノーフレイクス」もそうした物語と捉えられます。

またワイルドローズでの作品も、主人公が二人を覗き見るところから始まりました。

百合姫Wildrose Vol.7 (IDコミックス 百合姫コミックス)百合姫Wildrose Vol.7 (IDコミックス 百合姫コミックス)
(2013/07/27)
アンソロジー

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無防備なカーテンの向こう 異世界に映る その先 たった2mの距離

――また違う女の子連れ込んでる… 今月3人目… ……

3ヵ月前に 偶然見てしまった

――モテるな… お隣りのお姉さん この時間いるってことは大学生かな
 カーテン…… いつも開いてて… こっから丸見えなのに…
 いけないって思ってても やめられなくて 抜け出せなくて (73-75ページ)


こうした視線、また見る者の心情の描写が非常に上手く、読み手をぐっと引き込むため、
作品を触れるときに注目して読んでみると良いかと思います。


テーマ:漫画の感想
ジャンル:アニメ・コミック

嘘と忘却を乗り越えた先で (くろば・U『明日また君の家へ』)

2013.10.22 17:21|百合作品
明日また君の家へ (XOコミックス) (XOコミックス 百合シリーズ)明日また君の家へ (XOコミックス) (XOコミックス 百合シリーズ)
(2013/10/10)
くろば・U

商品詳細を見る

私がお姉ちゃんの代わりになる (帯より)


くろば・Uさんが色百合/彩百合シリーズに掲載していた作品をまとめた、
作品集『明日また君の家へ』が先日発売されました。
どれも読み込ませる作品ばかりで、掲載されていた頃から好きだったため、
単行本が出ると聞いたときには本当に嬉しかったですね。
今回は私なりに感じた作品の魅力を紹介してみたいと思います。

とりわけ連載である「Virtual」に注目しますが、
その前にそれ以外の作品を少しだけ紹介します。
色百合に掲載された「Virtual」以外の三作には、女ったらしの由真が登場します。
多くの人に想いを向ける彼女の考え方が、一つの見所になっていると思います。
次に挙げるのは、作品集の序盤でいきなり提示される彼女と友人の会話です。

「由真 あんた何人女の子に手出した?」
「ん? 別に大したことないよ キスまで十人 さわったのは六人で」
「食いすぎだよ じゅーぶん!
 ――まぁ あんたがどんな恋愛しようと勝手だが
 とっかえひっかえつーのは 相手の気持ちとさ あと先生に目つけられたら――」
「さすがそーみ 良家のお嬢様はマジメですな」
「フツーだろ」

「一応相手のことは考えてるつもりだよ
 お話して遊びに行って で 気持ちが通じ合ったらこう」
「はいはい」
私は いろんな人の心に触れたい 嬉しいことも悩みも共有したい
 一生の間で誰かと話せる時間って有限だから 可能な限り仲よくなってみたいんだ
 好き同士になってキスなりHなりってのは副産物みたいなもんで」 (3-4ページ)


「Skew Lines」、「よりみち」では、由真の相手となる側からの視点で、
こうした考えを持つ彼女に触れて何を思うかということが描かれていきます。
その中で特に印象に残るのが、上述したような由真の語りです。
いろんな人のこころに触れたいという由真の考え方。
ここに注目して読むと、これらの作品の固有性を見出せるのではないでしょうか。
「あとがき」ではいずれ彼女を主軸にした長編を書きたいという話が出ていましたが、
個人的にはそれをものすごく読んでみたいと思います。



○「Virtual」:嘘と忘却を乗り越えた先で


「Virtual」は、虚構で塗り固められた心と菜々花の関係を描いた作品です。
菜々花の姉である美空が母親と出て行ったことに、仲の良かった心が傷つくと考えた菜々花は、
姿の似ている自分が美空であるということにして、心と関わり続けることにします。
この「虚構(バーチャル)」の関係から抜け出いていく過程が作中で描かれるものです。
二人は関係を続ける中で、虚構を続けるための「嘘」をゆっくりと取り除いていって、
最後には二人とも本当の気持ちで、ごっこ遊びのような結婚式を行います。

「野宮菜々花さん 病める時も健やかなる時も
 相川心さんと共にいることを誓いますか?」
「――ソレは結婚する側のセリフじゃないよ?」
「えっ そうだっけ?」
「くす 誓います」
「えへへ じゃあこれは新婚旅行?」
「そうなるかもね」

女の子同士 ごっこ遊びのような私達二人「お嫁さん」
それは結婚というにはあまりにも拙く 玩具の指輪のようで
虚構(バーチャル)なものでしかないだろうけど 手の温もりは 今 確かに

「行こう こころちゃん」
「うん」

これからも変わり続けていく景色を これからも二人一緒に眺めていたい
そう誓った私の思いが こころちゃんと繋がった気がしたんだ (169-171ページ)


菜々花が美空であるということにする虚構の関係を乗り越えて、
二人は安いペアリングを使って、小さな結婚式を挙げるのです。
それは幼子のごっこ遊びのように気軽な雰囲気で行われるのですが、
参加する二人の気持ちはごっこ遊びではない。
本当の気持ちのこもった拙い結婚式が、二人の関係の一応の結末です。

しかし、「Virtual」はここで終わりません。
この先にコミックスの描き下ろし分が続いていきます。

描き下ろしは、「そういうことにする」という嘘で成り立っていた虚構の関係が崩されて、
二人が本当の気持ちを確認した後に、その気持ちに対して改めて疑問をぶつけます。
すなわち、それも「本当の気持ちを確認したことにした」だけではないかと問うてくるのです。
これまでのことは「本当に、虚構でなかったの?」という具合に。

菜々花と心が新しい関係を始めるに当たり、半ば「なかったことにした」美空が訪ねてきます。
事情を知った彼女は、もう虚構の関係を続ける必要はないと二人に迫ります。
二人は「そういうことにする」という積極的な「嘘」こそ乗り越えましたが、新しい関係は、
美空を半ば「なかったことにする」という消極的な「忘却」によって成り立っていました。
二人が嘘を取り払っても残存した「忘却」、その中身が二人の関係を調べる試金石になります。
美空本人に迫られても、虚構でないと答えることができるのかが厳しく問われるのです。

「菜々花 大きくなったね こころちゃんを悲しませないように
 ずっとがんばってくれてありがとう 
 パパに聞いたんだ ようやく全部もとどおりにできるよ――」(中略)

お姉ちゃんが帰るまでの こころちゃんを悲しませないためだけの
幼い幼いごっこ遊び だから帰って来たらごっこ遊びはおしまいで
待ち侘びていたあの日と同じ じゃあ そこから生まれた新しい関係は―― (183-185ページ)


この時点で美空と、菜々花と心の間にはどうしようもない擦れ違いが生じています。
つまり、菜々花と心は虚構の中にいることを止めた一方、
本当の美空に関わることは「忘却」して、その上に自分たちの関係を築いていました。
それとは逆に美空は、自分が母親から受けた仕打ちは全く忘却せずに(180ページ)、
心は自分を助ける王子様だという「虚構」を作ることで自分を維持していました(181ページ)。
二人は「そうだったことにしていない」が、「なかったことにしている」のに対して、
美空は「なかったことにしていない」が、「そうだったことにしている」のです。

虚構と忘却という選択肢が双方の間でかみ合っていません。

ゆえに美空と再会したとき、お互いの忘却と虚構は破壊されていくことになります。
菜々花と心は、目の前にいる美空によって嫌でも彼女のことを思い出します。
美空も、自分を支えていたものが虚構にしか過ぎなかったことを知ります。
双方の安定は、出会うことによって揺るがされることになるのです。
美空は、虚構の中に入ってくれない心を「ニセモノ」と考えることで自分を維持しようとしました。
けれども、かつて自分が心にあげたリボンが、「ニセモノ」ではないことを教えてしまいます。
そのときの美空の心情は、ちょっと言葉では表せないものです。
ただあの場面の美空の苦悶の表情だけが、それを辛うじて伝えています。


虚構から抜け出した二人と、未だ虚構の中にいた美空。


このどうしようもない断絶のために、三人は現時点でまだ一緒に過ごすことはできません。
美空が、自分の外傷を見れるようになった心を、「ニセモノ」と罵るのは象徴的です。
彼女の目が現実を捉えられるように、眼鏡を買ったのは菜々花に他なりませんでした。

結果として、美空のことを考えるとハッピーエンドと手放しには言えませんが、
虚構かどうかを美空に改めて問われて、見たくない現実を改めて見つめさせられて、
その上で二人が一言ずつ掛け合う場面こそ、この作品のこころに違いなかったと思います。

嘘と忘却を乗り越えた先で、二人はたった一言、確かめるようにつぶやくのです。

誰だったっけ ――誰かが言っていた気がする
大人になるためには知りたくもない事実も受け止めなければならない――って

「なっちゃん 愛してるよ」
「… 私も」 (194ページ)


この、「愛してるよ」という一言を。


テーマ:百合
ジャンル:アニメ・コミック

似て非なるライバルの二人 (アイカツ!第五十三話考察)

2013.10.20 18:33|アイカツ!
KIRA☆Power/オリジナルスター☆彡KIRA☆Power/オリジナルスター☆彡
(2013/10/23)
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第53話「ラララ☆ライバル」に関して考えたことをまとめました。
今回も、トピックをいくつか立ててそれぞれ提示していきます。
とりわけ話の中で示されていた、いちごとセイラの違いにスポットを当てます。



○『アイカツ!』53話:似て非なるライバルの二人


①いちごとセイラのアイカツ観の違い

まず、セイラたちがいちごの空白の一年を調べた場面に注目します。

「で、どんなネタを見つけたんだ?」
「えっと、えーっとね、いちご、サーカスの火の輪をくぐる」
「はい?」
「いちご、クリスマスに星になる」
「はい?」
「いちご、大海原でシャチにのる」
「はい?」(中略)

一年間、遊んでたのか? 星宮いちごは?」
「それはどうかな? これっぽっちの情報で、判断するのは危険じゃない?」 (53話)


ここで二人は、いちごが52話で語ったアイカツの内容をアイカツとは見なしていません。
二人はそれを「遊んでいた」と取っています。
彼女たちにとっては、シャチと戯れることはアイカツではないわけです。
すんなりアイカツと受け取っていた、スターライト学園の一同とは異なるアイカツ観が見出せます。
確かに私も感覚が麻痺していますが、そうした活動が何故アイドルと結びつくのかということは、
これまであまり示されていなかったため、今後扱われるのかも知れません。
セイラときいという外部の存在が、いちごたちの時に突飛な活動に改めて目を向けさせています。


②いちごとセイラのアイドルに対する考え方の違い

また、インタビューの受け答えでも、二人の間の差異が現れています。

「いちごちゃんにセイラちゃん、ずばり、今日はどんなステージにするつもりですか?」
「みんなに最高の笑顔になってもらえるステージかな。
 それがアイドルであるわたしの務め
「わたしも、みんなに笑顔になってもらいたいっていうのは一緒です。
 あと、お腹いっぱいになってもらいたいなあ」
「お腹いっぱい?」
「お腹いっぱいだと幸せいっぱいになれるから」 (53話)


このインタビューでセイラといちごが言ったことはほとんど同じですが、
セイラが「それがアイドルである私の務め」と言ったのは気になるところです。
この辺り、セイラの考え方は美月に似た考え方であると言えるように思います。
いちごはそう意識していないわけではないですが、きっちり務めと考えるタイプではない。
アイドルだから、「そうしなければならない」と自分を追い込むタイプではないのです。
このいちごの特徴は、53話の最後で確認された「ステージを楽しむ」というところに繋がっています。

「よかったよ、いちご!」
「ロックって感じじゃ音城セイラに敵わなかったかも知れないけど、
 でも、いちご最高に楽しそうだったな」
「うん、楽しかった!」
それが一番ね!
「うん!」 (53話)


いちごはいい意味で力が抜けているため、いつも純粋にステージを楽しむことができるのです。
いちごが負けたのにキラキラしていて、セイラに複雑な気持ちを抱かせたのは、
彼女がステージを最高に楽しんでいたからであったと思います。


③いちごとセイラの勝敗に対する考え方の違い

最後に、最も目立つのが、勝敗に対する考え方の違いです。
セイラはいちごと引き分けて以来、いちごに勝つことにとても拘っています。

「でも、負けない! アイドルとしてわたしは、あなたに勝ちたい!
「セイラちゃん……!」
「お互い頑張ろう!」
「うん!」 (53話)


セイラの代表的な台詞として、「あなたがドならわたしはレ」というものがありますが、
その言葉の中にも、相手より一歩先に行きたいという意識が滲み出ています。
そこでセイラは、相手のアイドルを「ライバル」として捉えているわけです。
当初より、勝ちに行くアイドルとしてセイラは描き出されていると言えます。

それに対して、あまり勝敗に拘っているように見えないのがいちごです。
実際セイラに負けたとき、いちごは笑顔でその事実を受け止めていました。

「うー、負けちゃった! でも気持ちよかった! 楽しかったね、セイラちゃん!」(53話)


ここでいちごは、セイラが思っていたのとは異なる反応をしています。
勝敗にそこまで拘っていなかったかのようにも見えるこの反応は、
言外に「勝敗以外にも大切なことがあること」をセイラに教えたと考えられるでしょう。

こうしたいちごの態度は、一年目より見出せる彼女の特徴です。

実際いちごは美月との関係においても、美月と一緒にまたアイドル活動できるようになるために、
彼女の隣に並ぶことを目指すのであり、勝つことを目指すのではありません(45話)。
勝敗が重要な意味を持つ、トライスターのオーディションのときですら、
いちごは他の候補者に勝ることをそこまで考えていません。
面接での次の応答は象徴的で、かなりいちごらしいものと言えると思います。

「その親友たちと、今は一つの椅子を奪い合っている」
「ただの、ただの椅子じゃありません。
 美月さんは私の、私たちみんなの憧れだから、
 トライスターに入ることは、私たちの夢が叶うこと。
 だから頑張れるし、応援できるんです!」 (35話)


ここで美月に、仲のいい三人が一つの椅子を争っていることを指摘されたとき、
いちごは自分と同じ気持ちを持っていると分かるため、他の二人をも応援できると語っています。
一つの椅子を争う場においても、いちごは隣に立つアイドルを、
対峙する「ライバル」としてより、同じ夢を追う「仲間」として見ているのです。
現に53話のりんごとの会話で、いちごがセイラも「仲間」と捉えていることが分かります。

『アイカツ!』では勝ち負けは基本的にファンが決めるので、勝ちを狙いに行くというのは、
ファンにより喜んでもらおうとすることであり、アイドルの姿勢として正しいとも考えられます。
しかし、それ以外のところにも重要なことがある。
いちごの態度は、そのことを端的に示そうとしているのです。
勝敗以外で重要なこととは何か。
そのヒントは、セイラの次の言葉によって思い出されるものの中にあります。

「でも、あの子が心から笑顔になったのは、テレビに出ているあなたを見たときだった。
 転んでも立ち上がって、一生懸命歌うあなたを」 (53話)


この言葉は、2話のいちごのステージを思い出させます。
あのときいちごは転ぶという最大の失敗をして、完璧な敗北を喫したのですが、
頑張ったいちごを見て、ファン第二号の駆は頑張ろうという気持ちになりました(4話)。

セイラいわく、ノエルもそういういちごを見て「心から笑顔になった」。
負けたのにもかかわらず、いちごは人を惹きつけたわけです。
けだしここに、勝敗以外の重要なことが表れています。
一生懸命やるということ、全力で臨むということです。
勝敗に関わるいちごとセイラの違いは、このことの強調に繋がっているように思います。


④結論:「楽しむこと」と「一生懸命やること」の強調

結論として、53話はいちごとセイラを非常に似た二人の主人公として描きながら、
要の部分はかなり異なっているということを浮き彫りにしたのだと思います。
とりわけ、セイラがいちごに勝ったのに、勝った気がしないと言ったことで、
いちごのように「楽しむこと」「一生懸命やること」が重要であると強調されています。
アイドルの務めを考え自分を追い込むことも、ステージでの勝敗に拘ることも、
アイドルとして間違っていると言うことはできません。
それもアイドルとしての、一つの正しい姿であると言えるでしょう。
しかし今回は、それとは異なるいちごの姿がテーマであったと思います。


⑤おまけ:『アイカツ!』のプロデューサー観

終盤のセイラときいの会話には、『アイカツ!』のプロデューサー観が表れていたと思います。
勝利という結果はでたものの、納得のいっていないセイラを前にしてもっと頑張ると言ったきいは、
アイドルの満足も含めた「実質的結果」とでも言うべきものをプロデューサーとして追っています。
単に結果を求めるのではなく、「アイドルにとっての結果」を求めるのが、
『アイカツ!』のプロデューサーなのかも知れないと、見ていて考えました。


テーマ:アイカツ!
ジャンル:アニメ・コミック

ミステリーからリトルホラーへ (『マリア様がみてる』「ワンペア」)

2013.10.17 17:40|マリア様がみてる
マリア様がみてる リトル ホラーズ (マリア様がみてるシリーズ) (コバルト文庫)マリア様がみてる リトル ホラーズ (マリア様がみてるシリーズ) (コバルト文庫)
(2009/07/01)
今野 緒雪

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本日は久々に、『マリア様がみてる』の記事です。
今回は特に、「リトル ホラーズ」に収録されている短編、「ワンペア」に注目します。
この作品に関して、先日ツイッターに書いたことをまとめ直していきます。

とはいえ、アニメ派の方など、この作品まで触れたことのない方もいると思うので、
祐巳たちの出てくる「リトル ホラーズ」本編の見所も少しだけ紹介してみます。
「リトル ホラーズ」は祥子と令が卒業して、祐巳たちが薔薇さまになった後の話です。
とりわけ印象的なのは次の場面で、祐巳が、由乃の妹になった菜々を諭しています。

「由乃さんさ。以前、自分より剣道が強い子は妹にしたくないって言ってたんだよね」
 祐巳さまが、ポツリと言った。その言葉を聞いて、菜々は「やっぱり」と思った。やっぱり、嫌なんだ。それが何であれ、自分より上に妹がいるというのは面白くないことなのだろう。
 祐巳さまの話では、その発言を聞いたのは去年の秋頃。山百合会主催の茶話会前後というから、まだ二人が出会う前のことだ。
「でも、結局菜々ちゃんを選んだ。それって、どういうことかわかる?」
 尋ねられて、正直に首を横に振る。何がきっかけで剣道上級者を妹にしたいと考えを改めたのかもわからなかったし、祐巳さまがそんな話をする理由もわからなかった。
「そんな条件がどうでもよくなっちゃうほど、菜々ちゃんが良かったってこと」
「え」
 思わず、水道管を離しそうになるほど驚いた。でもすぐに「まずい」と思って、慌てて握り直す。そんな菜々の様子を、祐巳さまは横目で眺めながらほほえんだ。
「菜々ちゃんを好きになっちゃったんだから。菜々ちゃんが妹になってくれるだけで、十分だってことじゃないの?」
 ああ、こんな時に。菜々は恨めしく隣りにいる人を見た。
本当に大切な人は、ただ側にいてくれるだけでいいんだってば
 どうして、こんな殺し文句をさらりと言ってくれるのだろう。 (176ページ)


ちょっと省略できず、一ページ全部引用してしまいました。
注目すべきは、ここでの祐巳の薔薇さまとしての振舞いですよね。
蓉子を思い出させるような、下級生に対する真っ直ぐな領導です。
祥子の卒業という一応のエンディングを迎えた後で、
きちんと薔薇さまになっている祐巳が、ここではっきりと描かれています。
「仮面のアクトレス」で蓉子を目標として挙げたことは、ここで回収されていると思います。
そして「フェアウェルブーケ」では、それに続いて聖のような祐巳も描かれる。

本編に関しては、なだらかなエピローグの雰囲気の中で描かれる、
「祐巳の成長の結果」こそ、注目すべき見所であると思います。



○ミステリーからリトルホラーへ:語らなくなる多子


それでは続いて、短編「ワンペア」に関する紹介に移ります。

『マリア様がみてる』で本編でない短編へ注目が集まることは相対的に稀ですが、
個人的にはこの「ワンペア」という短編がすごく好きなんですよね。
話としては、ただならぬ雰囲気を纏った異常に綺麗な双子の少女に、
その担任が翻弄される話なのですが、書き方が異様に怖いのです。

ワンペアの怖さというのは、結局真相がよく分からない点に求められるのですが、
その原因は、担任が双子に翻弄され、最後には捕らわれたことに見出せます。
彼女たちに惹きつけられたことで、担任が語るべきことを語らなくなる。
その不気味さが、「ワンペア」を確かにホラーにしていると思うのです。
もう少し詳しく述べていくことにしましょう。

多子(なこ)は、同い年の従兄である一也(かずや)が失踪したことを受けて、
彼が以前勤務していたリリアン女学園につてを使って就職します。
何故彼は失踪しているのか、彼は無事なのかをそこで確かめるためです。
結果、コハクとメノウという双子の生徒が、深く関係していたことを突き止めます。
そして、彼女たちの口から、一也の失踪の契機を聞かされることになります。
そして、多子は一也が今どこにいるのか、二人に問い質そうとします。

「一也はどこ?」
 多子は落ち葉の中で身を起こして、穴の縁に立つ二人を見上げた。髪にもコートにも土や葉っぱをつけたままだったが、構わなかった。
「知らないわ」
「私たちはここに落としただけ」
 冷ややかな視線が返ってくる。
「まさか」
 多子は半狂乱になって、足もとの落ち葉を素手でかき起こした。一也がここに落ちた。その後、どうなったのだ。まさか、まだこの下に――。
 必死で掘り返していると、頭上から高笑いが聞こえてきた。
「きれいよ先生」
「あなた、本当に素敵だわ」
 言い残して背中を向ける二人。
「待って」
 多子は、無我夢中で穴から這い上がると、必死で追いかけた。落ちた時にひねったのか、右足が痛くて思うように走れない。それをあざ笑うかのように、コハクとメノウは蝶のようにヒラヒラと逃げる。まるで、ここまでおいでと、からかっているみたいだ。
 銀杏並木を進んで、マリア像の前まで来ると、二人は立ち止まって振り返った。
 追いついた多子に、ニッコリとほほえむ。
 天使だろうが悪魔だろうが構わない。
 あまりに美しくて、多子は何もできないまま立ちつくした。 (161-162ページ)


この後、多子はただ平穏に授業を行い、時々双子の少女を気に掛けるだけで、何も語りません。
とりわけ最も大きな関心事であったはずの一也の生死についてまるで触れなくなります。
その不気味な多子の反転が描かれて、そのまま物語に幕が下ろされるとき、
読み手は彼女が翻弄された末に、どこかへ行ってしまったという感覚を抱かざるを得ないと思います。

確かに、一也が失踪するきっかけとなった事件に関しては、二人から明らかになりました。
しかし、一也の生死に関してはノータッチで、謎のまま残されています。
何故、多子はそのことについて何も語らなくなるのでしょうか。
失踪していた一也に実際に会うことができた?
死体になった一也にどこかで対面した?
先の引用と、「何も語らない」後日談からすると、どちらも異なります。
多子にとって、一也の生死がどうでもよい事柄になったからこそ、平穏に日々を過ごすのです。
眼前の美しい二人の前に、彼女たちに抱いた気持ちの前に、一也は霧散してしまいます。

言うなれば、一也の行方を追って、不思議な二人と対峙していた多子は、
彼女たちに穴に落とされ、マリア像の前でほほえまれたところで向こうに行ってしまったのです。
多子は殺されるわけでも何でもないのですが、読み手を置いて一線を飛び越えてしまった。
そこに何とも言えない恐怖があります。
それは、ホラーの登場人物が得体の知れない何者かに誘われて、
向こうの世界に取り込まれたのを見たときの恐怖に似たものです。

ゆえに「ワンペア」は、最初は『マリア様がみてる』お得意の「プチミステリー」で進行しながら、
最後に急に「リトルホラー」に化ける作品であると言うことができます。
多子が向こうに行ってしまったため、結局一也がどうなったのかよく分からない。
その結末に触れたときの怖さ、気持ち悪さは、確かにホラーがもたらすそれなのです。


テーマ:マリア様がみてる
ジャンル:アニメ・コミック

あおいの抱えるソレイユ的課題 (アイカツ!第五十二話考察)

2013.10.14 17:05|アイカツ!
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(2013/10/23)
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いちごとセイラが競い合った、『アイカツ!』52話の感想ツイートのまとめです。
引き分けという結果について、提示されたあおいの課題について、
いちごのステージについてという三つの事柄について語っています。



○『アイカツ!』52話:あおいの抱えるソレイユ的課題


①いちごとセイラの勝負の結果について

まずは、二人が真剣勝負の結果、引き分けたことについてです。
『アイドル活動!』のロックバージョンが対決の課題曲だったのかは分からないですが、
いちごは「ロック」というセイラの領域で引き分けに持ち込み、
セイラは「アイドル」といういちごの領域で引き分けに持ち込んだという図式になっています。

自分の領域に入ってきて、引き分けに持ち込んできた強敵。
だからこそいちごもセイラも、お互いに相手を意識するようになっていったのだと思います。
この辺りりんごが言っていたように、本当に「いきなり熱い」展開です。


②提示されたあおいの課題

次に、いちごの方がいいと踏んでステージを譲るなど、
今回あおいが自信なさげに描かれていたことについてです。
象徴的な織姫学園長との会話の部分を引用します。

「霧矢」
「いちごに交代してしまいました。負けたら学園長が辞めると聞いて……」
「聞かれてしまったのね……。耳に入れてしまって申し訳なかったわね。
 でも霧矢、あなたも星座アピールを出せると思っていた。
 あなたの可能性、私は信じているわよ」
「はい」 (52話)


あおいがここまで弱く描かれるのはつぶやきの回(7話)以来かも知れません。
けれど、その弱さにより示されているのは、非常にソレイユ的なあおいの課題です。
すなわち、上述の学園長の言葉から分かるように、
ここでは「自分を信じる」という課題が提示されています。
これは、いちごもかつて直面し、かえでから提示された問題です。

「スターアニスは、ユニットから単独活動にシフトしますって、
 まだ美月さんの言葉が、頭の中でぐるぐる回ってて。
 みんなはどんどん前向きに気持ちを切り替えているのに」
「寂しくなっちゃった?」
「なのかな……?」(中略)

一人でも仲間と一緒にいても、自分を信じる!
 仲間を信じるのと同じように、自分をね!
 そうすれば怖くも寂しくもないよ」 (42話)


ソレイユの三人は三人「一緒」を軸としてきたので、
このように「自分」というのが一つの大きな課題になり得るんですよね。
今回提示されたあおいの課題というのは、
いわば蘭がトライスターを脱退したときに見えた課題に近いと考えられます。
先の展開は分からないですが、あおいは星座アピールに挑戦するとき、
改めて「自分と向き合う」ことを問われるのではないでしょうか。
今回あおいが弱く描かれたことは、そのときに繋がっていくような気がします。


③いちごらしいロックステージ

最後に、今回のいちごのステージについてです。
モデルが更に進化していたこともあり、素晴らしかったと思います。
あれだけかっこいい曲、かっこいい歌い方でありながら、
それでも元気いっぱいで可愛さいっぱいな、いちごらしいパフォーマンスでした。

全力でかっこよかったセイラの『アイドル活動!』とはまた異なる、
いちごの『アイドル活動!』だったと言うことができるのではないでしょうか。

aikatsu03.png

この今回のステージは、個人的にはユリカとのステージを思い出させるものでした(19話)。
この回でいちごは、ユリカと対峙するためにそれっぽい仮装をして本番に臨もうとします。

「何やってんだ?」
「歌詞を魂の叫びにしているところです。
 そう教えてくれたの、涼川さんじゃないですか」
「おれがいいたいのはその格好だよ」
「フランケンシュタインの花嫁です。早く人間になりたーい」
「お前が心から楽しいと思うことなら、ファンも楽しんでくれるんじゃね?」(中略)

「お互い頑張りましょう、でないと、ユリカ様に血を吸われるわよ」
「うん! わたしも、わたしらしくやる!」 (19話)


仮に相手に近い土俵であっても、「わたしらしく」ステージに立つ。
フランケンシュタインの花嫁に仮装するという失敗を経てあのとき学んだことを、
セイラとの対決でもしっかり活かしていたと見ることができます。
そういったことも踏まえて、成長したいちごの、いちごらしいロックステージだったと思います。


テーマ:アイカツ!
ジャンル:アニメ・コミック

太陽と月のその先へ (アイカツ!第五十一話考察)

2013.10.13 17:01|アイカツ!
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(2013/09/25)
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少し遅くなりましたが、『アイカツ!』の新シーズンが始まりました!
ドリームアカデミーが登場し、対戦ライブも始まる、めまぐるしいリスタートだったと思います。
既に一年が経過していて、おとめや美月など、既存メンバーの変化が興味深い第一回でした。
ちなみに51話は公式で無料配信されています。

今回は、51話を見てツイッターに書いた内容のまとめです。
少し捕捉を加えつつ、試験的にそういった記事を書いてみようと思います。
向こうでも記事ほどの長さの語りをしていることがあるので、
使えそうなところはこちらでも記事にして残していこうかと。
そのため口調が少しフランクかも知れませんが、
大体いつもどおりだと思うので、よろしければお付き合いください。



○『アイカツ!』51話:太陽と月のその先へ


①あおいがきいと意気投合する場面について

51話でよかったのは、対決前にセイラときいが楽屋を訪ねて来たときに、
あおいが「でも分かるよ、きいちゃん!」って言って向かっていくところです。

「ちょっときい! あたしのプロフィール、今ほとんど言っちゃったよ」
「謎めいた部分が……」
「かなり分かった……」
「ああー! 言われてみれば確かに!」

「でも分かるよ、きいちゃん!
 きいちゃんはセイラちゃんが大好きなんでしょ!
 だからみんなに教えたくなっちゃうんだよね」
「ピポピポピンポーン!」 (51話)


この行動というのは、いちごっぽいし、そして何よりあおいっぽいんですよね。
順を追って説明していきます。

まず、強力なライバルに対して、平気で肉薄していくのはいちごっぽいです。
実際、かえでが来たときのいちごの反応が一番分かりやすいのですが、
いちごは強力なライバルが登場してきたとき、勝負事にし過ぎないで、
平気で相手に向かっていくんですよね。
おとめ、ユリカ、かえでの登場回(10話、19話、34話)など。
あおいのきいへの反応というのは、そういういちごに似ています。

ただいちごだったら、「シークレットって、かっこいいね!」、
みたいなテンションでセイラに向かって行ったと思うのだけど、
あおいはセイラでなくてきいに向かって行くんですよね。
これがアイドル好きで、どことなくきいに似ているあおいっぽい。
ゆえに強敵二人を前にしてきいに向かって行くあおいは、いちごっぽくあおいっぽい。

いちごがみんなとのアイカツから、かえでのこれまでを思い出させる「わたしの」アイカツへ、
かえでが「わたしの」アイカツからみんなとのアイカツへ向かったという例から分かるように、
『アイカツ!』という作品は一方で「それぞれの軸」を描きながら、
他方で「仲間からの影響」も描いていますが、
先の場面もそういった形で捉えることができると思います。

つまり、真剣勝負前なのにライバルに親しげに向かっていけてしまう点には、
いちごからの影響を見出せなくもないんですよね。
そしてそれと同時に、きいに向かって行く点には、あおいの軸を見出せる。
そういうバランスの取れた、いいシーンだったと私は感じました。


②学園長が指名したのがあおいだったことについて

また対決するアイドルとして、例えばおとめや蘭ではなく、
あおいが選ばれたことに関しては、物語上よかったと思います。
というのも、前半で少し離れたところから半ば他人事としてドリアカを眺め、
後半でシリアスにドリアカと対峙するということは、
ファンとしてもアイドルを眺められるあおいにしかできないからです。

アイドル博士ゆえに半ば他人事としてドリアカを眺めていたのだけど、
今回からドリアカと真面目に直面しなければならなくなるあおいというのは、
いわば見ている私達に近かったと思うのです。
これまで遠いところにいたドリアカが、深刻なライバルとして距離を詰めてくる。
あおいだったからこそ、そういった流れを作ることができました。
そしてその流れがあったからこそ、これまで出番のなかったドリアカを、
私達も深刻な現実として一気に受け止めることができたのだと思います。


③「太陽と月」のその先へ

さらに、ドリアカの学園長・ティアラの発言に注目すべきものがありました。
セイラがステージを終えた直後の場面です。

「セイラ、きい! いいステージだったわ!
 星座アピールを出すなんて、もう勝ったようなもの!」
「えへへ」
「本当にこれで勝ちなのかな?」
スターライト学園にいる星宮いちごが太陽なら、
 セイラはさそり座のアンタレス」
「太陽の一万倍、明るく輝けるんだよ!」 (51話)


ここでティアラがいちごを「太陽」として引き合いに出している点からすると、
既にいちごが太陽になれたことは前提にされているんですよね。

前回の記事で述べたように、50話で美月がいちごのことを、
「自分を輝かせてくれたもの」として挙げたのには、やはり相応の意味があったと思います。

すなわち、いちごが現に月を輝かせる太陽のような存在になれたことを認証する意味です。
いちごが自分を見つめ直し、美月を追いかけるだけではなく別の道を歩み始めていたため、
明々にこの認証は行われませんでしたが、美月は内心認めていたのだと現時点では思います。

その上で、ここからは太陽と月を軸とするのではなくて、
その先を進んでいくということを示すために、
ドリアカの学園長の「アンタレス」発言があるのだと思います。
これから紡がれるのは、太陽と月の物語の、その先にある物語なのです。


④おまけ:今回の引き方について

今週から冒頭のいちごの「フフッヒ」はないのかあ……、
と思わせておいての「フフッヒ」での締めは個人的にかなりテンション上がりました。

aikatsu02.png

やっぱりこのポーズといちごの明るい笑顔というのは、
私の中でアイカツ!の始まりを示す記号になっているので、
今回の冒頭で「アイカツ!はじまった」くらいだったのが、
最後のいちごで「わあ、アイカツ!はじまったああああ!」くらいになりましたね。
次回が俄然楽しみになる締め方だったと思います。



これで以上です。
何か書きたいテーマがあれば、これまでと同様に改めて書きますが、
今後は同時にこういったツイートのまとめ記事みたいなものも作っていきたいと思います。

今期は再放送も含めてアイドルアニメが多いようですが、
やっぱり『アイカツ!』は面白いということで、じっくり楽しんでいきたいです。
52話の感想についても、近日中に挙げたいと考えております。


テーマ:アイカツ!
ジャンル:アニメ・コミック

自ら輝く太陽として ――「太陽」という目標からの卒業 (アイカツ!第五十話考察)

2013.10.02 18:59|アイカツ!
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一年目の最終話となる、50話「思い出は未来の中に」が先日放送されました。
美月との決着も、ソレイユの三人のきずなもどちらも描いてしまう、
アイカツ!らしいまとめ方であったと思います。
いちごは美月や、あおいや蘭から沢山のことを学んだ上で自分の道を決断する――

特に印象深かった場面は、あおいたちが見送りの場でついに泣いてしまう箇所です。
自分の道を自分で考えてアメリカに出発したいちごと同様に、
あおいたちもそれぞれの道を力強く歩んでいくことを示すのなら、
彼女たちの涙は描かれる必要がなかったのかも知れません。
最後まで明るく、笑顔で送り出すというラストでも特に問題はなかったでしょう。
しかし、『アイカツ!』はあそこで泣いてこそだったと私は思うのです。

というのも、『アイカツ!』は輝くために努力するアイドルの、
個々の強さだけを主題にしているわけではないためです。
蘭がトライスターを脱退する37話が顕著ですが、「一人でも輝ける」ということとは別に、
誰かと「一緒だから輝ける」ということも作中では強調されてきました。
『Wake up my music』が「あなたと歌うわたしが いちばん綺麗」と歌うのは示唆的です。
いわば「自分の強さ」と同時に「みんなとの繋がり」も描いたのが『アイカツ!』だったと言えます。
中でもソレイユの三人の物語は、トライスターとの対比で後者に軸を置いていました。
だから、あおいや蘭は泣いてこそだったと思うのです。
あおいたちが必死に我慢した末に、最後の最後で泣いてしまったとき、
『アイカツ!』は明らかに、単に個人の強さを描くだけの作品とは決別しています。

そこで強調されたのは、一人ひとりの強さではなく三人の強い繋がりでした。


さて今回は、特にライブ前後のいちごと美月のやり取りに注目します。
プールで遊ぶ45話で、美月は改めていちごに宿題を出しました。

「あの、また一緒に何か……。 
 スターアニスでも何でもいいんですけど、私、また美月さんと――」
「またいつかね。覚えてる? 私の言ったこと」

――星宮いちご、あなたは太陽になれるかも知れない。

「私が太陽じゃないから……ですか? 太陽っていったい……?」
「いちごを見て思った、私たちは違うって。違う輝きをしてる。
 でもまだ足りない。そんな光では月に負ける。同じ空では輝けない」
「追いつきます。負けないくらい強く輝いて、太陽みたいになります!
「待ってる。それじゃあ行くよ!」 (45話)


ここで28話の、「太陽になれるかも知れない」という美月の言葉が再度確認され、
いちごは太陽になるという目標に向かって改めて進んでいくことになります。
今回は、この目標が50話でどのように回収されたかに注目し、
そこから『アイカツ!』という物語全体の帰結について論じていきます。

つまり最後に物語が提示したことは何であったのか、ということがテーマです。
もしよろしければ、最終話の内容を思い出しながら少しの間お付き合いください。



○自ら輝く太陽として:美月と「太陽」という目標からの相対的な卒業


まず、上述の45話の内容が、50話でどのように回収されたかを確認します。
いちごと美月が決戦前に短い言葉を交わし合う場面に注目してみましょう。

「美月さん……」
「ついにここまで来たね」
「美月さんのおかげです。
 美月さんが最初からずっと、私が進む先に輝くお月様みたいな、道しるべでした!
「私も、喰らいついてくるあなたを背中で感じたから、歩みに気合が入ったのかも
 今日はラブクイーンのプレミアムでいくよ! ロイヤルムーンコーデ」
「私はスターフェスティバルコーデです!」
「素敵なステージにしよう! いちご、あなたに会えてよかった」 (50話)


この場面では、28話の「美月とスッポン」というイメージが再登場しています。
いちごにとって美月は自分を導いてくれてた「お月様」であり、
美月にとっていちごは自分に喰らいついてきてくれた「スッポン」でした。
そしてそれぞれ月がいてくれたから、スッポンがいてくれたから、
自分の更なる成長に繋げることができたということが、ここでは語られています。
こうした会話を経た上で、美月はステージ後のインタビューで次のように述べます。

「応援してくださったみなさん! ありがとうございました!
 再びクイーンになることができて、毎日の努力が報われた想いです!
 そして今年私を輝かせてくれたのは、ファンのみなさんであり、星宮いちごです!」(50話)


下線部は、ファンと対戦相手に感謝を述べた、ありがちな一文に見えます。
しかし、45話で「同じ空では(まだ)輝けない」と断じたいちごと同じステージに立ち、
大接戦を演じたという流れを踏まえると、美月のこの言葉にはそれ以上の意味があります。
すなわち、その光で実際に月を輝かせている太陽のような存在として、
いちごのことを認めていると考えることができます。

いちごは負けたものの、一歩も引かずに美月とのステージをやり遂げました。
その結果を受けて、美月はいちごが太陽になったことを暗に認めたのです。
美月が「私を輝かせるもの」としていちごを挙げたのには、それだけの意味があったと思います。

45話で再確認された「太陽になる」という目標は、以上のように回収されています。
ここで気になるのは、それが非常にさり気ないやり方で回収されているということです。
つまり、美月が「自分を輝かせるもの」としていちごのことを認めるだけで、
実際に二人の間でいちごが太陽になれたということが確認されるわけではありません。

特にいちごは、50話で「太陽になる」という目標を全く持ち出しませんでした。
ゆえに45話で目標を確認したのにもかかわらず、美月から一方的に認めるだけです。
これにはどのような意味を見出すことができるのでしょうか。

私は、45話の目標に関して美月がいちごを一方的に認めるだけで、
いちごが特に語らないということは最終話において決定的に重要であると思います。
けだし、ここで示されているのは「太陽」という目標からのいちごの「卒業」です。
これまでいちごは、美月に与えられた「太陽」という目標を追いかけるばかりで、
自分はどのように輝きたいのか、どこに進みたいのかということに関して曖昧でした。
28話における、トライスターの面接の際のいちごの受け答えは顕著な例です。

「最後の質問。星宮さんが入ったらトライスターにどんな輝きが加わるのかしら」
「憧れの美月さん、パワフルなかえでちゃんと一緒のステージに立てたら――」

――このまま私に喰らいついてこられるなら、星宮いちご、あなたは……。

太陽! 私はトライスターの太陽を目指して、朝から晩まで沈まずに輝き続けます」(35話)


ここで美月が聞いているのは、いちごはトライスターでどのように輝くのかということです。
いちごは質問を「どのように輝きたいか」という目標を聞くものとして捉え、
少し考えた末に、28話で美月から言われた「太陽」という言葉を持ち出しています。
これは、自分のアイドル知識を活かしてトライスターをサポートしたいと語るあおいや、
誰と一緒でも自分の輝きで勝負していけると語る蘭と比べると、借り物の目標に見えます。
太陽はいいとしても、具体的にどのように輝くのか、どのような方向へ進んでいくのかという、
自分の歩んでいく道、向かっていく目標に関する「いちごの考え」があまり見えてきません。


このいちごの曖昧さは、美月の他に、特にかえでとの関わりの中で問題にされてきました。
アメリカの激しい競争の中で一人で頑張ってきたかえでと比べて、
いちごには自分を導いてくれる道しるべがいて、一緒に頑張ってくれる仲間がいました。
周囲に理解者がいて、その人たちに教えられて成長してきたのがいちごであったと言えます。
美月はもちろん、あおいや蘭(22話)、りんご(31話)、デザイナーであるあすか(32話)、
ジョニー(46話)など、最も誰かに教えられて、学びを得ていちごは成長してきたのです。

その中でいちごは美月を目指し、美月に示された「太陽」という目標を追いかけてきました。
自分の道に関して曖昧であったのは、そうした状況の結果であったと考えられます。
42話で、かえでが「自分を信じて」というメッセージをいちごに送るのは象徴的です。

しかし、いちごはみんなが自分の道を自分で決めて歩んでいることに次第に気付いていきます。
かえで(42話)、しおん(43話)、涼川(44話)、そして美月(45話)、マスカレード(46話)。
それぞれが自分の道を歩いていることに触れて、
単に「太陽」を掲げ、美月を追いかける姿勢は変わっていくのです。
実際に48話では、りんごやあすかが教える前に、「自分」を考える必要を認識しています。
そして49話では、あおいや蘭を初めとする仲間たちの頑張る姿をきっかけに、
自分が更に輝くためにはどうするのがいいのか、自分の道に関して考えるのです。


その結果が、「アイカツ」でした。


あおいには女優、蘭にはモデルがあるように、自分には「アイカツ」がある。
いちごはそのように考えて、アメリカに渡るという自分の道を選び取ります。
それは、美月のくれた目標だけを追いかけていたときには、絶対に現実化しないものです。
仮にいちごがこれまでのいちごのままであったら、美月が学園にいる限り、
学園を辞めてアメリカに渡るという大胆な決断はできなかったことでしょう。
これまで曖昧だったいちごが、ここでほぼ初めて「自分」を持つに至っています。
それはいちごの美月からの「相対的な卒業」であったと言うことができます。

50話で「太陽」のことが回収されながらも、いちごがこの話を出さないのはこのためです。
彼女はあの瞬間、既に「太陽」への道ではない、自分の道を歩み始めていました。
ただ美月が認めることでのみ、宿題の達成が仄めかされることは、この事実を強調しています。
二人で宿題の達成を確認して終わるのではなく、いちごが自分の道へ駆け出して行って終わる。
このことこそ『アイカツ!』という物語が最後に提示したものではないでしょうか。
そもそも、「太陽」は何かに依存して光を発しているわけではありません。
いちごは「太陽」という目標のみに拘ることを止め、美月から相対的に卒業しましたが、
そのことが彼女を、「太陽」と喩えるに足るものにしたとも言えると思います。


結論として、45話で確認された「太陽」という目標があまり前面で回収されないのは、
いちごが美月から、あるいは「太陽」という目標から相対的に卒業したことを示唆するためです。
換言すれば、この「相対的な卒業」こそ、物語が最後に提示したものだったと言えます。
いちごは誰かに喰らいつくスッポンではなく、自ら輝く太陽として外国に赴くのです。

以上のように、いちごや美月を通して、誰かに憧れる気持ちのパワーを前面に押し出しながら、
最後にそこからの脱却を描いて、『アイカツ!』という作品の一年目は幕を閉じました。
美月が学園長の下を去るのも、いちごの卒業に追随する動きであったと言えます。
そこから物語がどう動いていくのか、二年目の展開も楽しんでいきたいと思います。



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