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きんいろを描く絵本のような (きんいろモザイク:第十二話感想)

2013.09.25 17:05|きんいろモザイク
きんいろモザイク (4) (まんがタイムKRコミックス)きんいろモザイク (4) (まんがタイムKRコミックス)
(2013/09/27)
原 悠衣

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ついに第十二話「きんいろのとき」が放送されました。
前回、五人の進級の直前で切り上げた上での最終回です。
個人的には、素晴らしい締め方だったのではないかと思います。
とりわけミュージカルパートは楽しくて、色々と考えることを止めて見入ってましたね。

そして次回予告が不在で、エンドカードまで至ったときの確かな満足感と寂寥感。
アニメ化決定以前より好きな作品であったため、そこでの感慨もひとしおでした。

しかし、いつまでも燃え尽きたかのようにぼんやりしているわけにはまいりません。
今週はDVD一巻や、待ちに待った原作四巻が発売されます。
今月の『まんがタイムきららMAX』の表紙はアリスたち五人が飾りましたが、
そこに添えられていた「See You, AGAIN!」という言葉が示す通り、
まだまだ『きんいろモザイク』という作品自体は続いていくのです。
きちんと自分の中で一区切りをつけて、これからに備えなければなりません。

そこで、今週はいつもより力を入れて、記事を書こうと思います。
今回は大きく分けて二つのことを扱っていきます。
まずは、アニメオリジナルだったミュージカルのパートについて。
次に、最終話全体を眺めたときの、その締め方についてです。
この二つについての考えをまとめて、自分なりの一区切りにしたいと思います。

もしよろしければ、話の内容を思い出しながら、少しの間お付き合いください。



○五人で作る五人のミュージカル:これまでの日々の上に


まずは、最終話の中でも最も目を引く、忍の語りの内容に注目してみましょう。
忍がみんなに物語りをする話自体は原作二巻にありますが、
どのような話をしたかということはほとんど示されていません。
そのため、物語の中身はアニメのオリジナルであったと言えると思います。
あのミュージカル調の物語に関して私がとりわけ注目したいのは、
物語の中の五人が、きちんとそれぞれの「らしさ」を持っていたということです。
演じてはいるものの、普段の五人を思い出させるような役柄になっています。
その意味で忍の物語は確かに、「五人のミュージカル」だったと言えます。

物語の内容を確認しながら、一人ずつ見ていきましょう。
まずは、海賊船の船長として登場してきたカレンです。
忍は自分をさらったカレンに対して、率直に問いかけます。

「どうして私を? 宝物なら他を探せばいくらでも…」
「手に入りマス 何でも手に入る それはつまらないデス!」

 世界中を旅したデス 金銀財宝 どきどきの毎日
 けれど今はもう どきどきしない 我ら七つの海を 支配する海賊だ
 世界には果てがあると知ってしまった 

「果てなんてありません 世界は丸いんですよ 本で読みました」
「本の話デス!」
「確かめに行きませんか まだ見たことのない世界」

 きっとありますよ
 あなたと一緒なら見つかるかもしれない あなたとなら

「しのでいいですよ」
「シノ シノ シノシノー!」 (12話)

 
この場面は、普段のカレン、また普段のカレンと忍の関係を想起させるものです。

まず、カレンはアリスと取り合うくらいに忍には特に懐いていて、
「シノは特別な感じするデス」と発言しています(3話、1巻92ページ)。
また忍が風邪で休んだときには、「いないとつまらないデス」と述べています(4話)。
カレンはみんなのことが好きですが、忍は中でも少し特別な存在であるわけです。
物語中の船長と姫の間にも、同様の関係を見出すことができます。
当初打ち解けられなかったカレンが、忍の言葉を受けて前に進んだように(3話、1巻92ページ)、
海賊船の船長も姫の言葉を受けて、まだ見ぬ世界へと歩み出していきます。
劇中でもカレンと忍の普段の関係が描き出されていることが分かります。
また、カレンは日本の漫画が好きで、その主人公に影響されることからも分かるように、
ロマンに満ちたアドベンチャーのようなものに憧れている嫌いがあります。

猫を追って見知らぬ土地まで行ってしまうような冒険が似合うのです(10話、2巻95ページ)。
その意味で、どきどきを求めて冒険する海賊船長というのはカレンの適役と言えます。

このように、カレンに合った役で、カレンと忍の日常の関係を基にした筋書きになっているのです。


次に、陽子と綾について見てみることにしましょう。
綾が人魚として忍を助けるところから、忍の語りは再開します。

「ここは…? 足がつきません!」
「大丈夫 しっかりつかまって… あ あの船は…!」

 もう一度 一目合いたかった ずっと
 手を伸ばせばとどきそう でもいいの ここから見つめるだけでいい

「大好きなんですね」
「ちょっと気になるだけよ」
「もしかして君は遭難した私を助けてくれた人だよね?」
「違うわ!」
「ずっと思っていた もう一度会いたいって思ってたよ!」 (12話)


自分の本意を抑え込んで遠くから見守るだけでいいと述べる人魚は、
陽子がラブレターを受け取ったときの綾に重ねることができます。
あのときも綾は自分の気持ちから目を背けて、せいいっぱい陽子を見守ろうとしたのでした。
涙目での陽子への「おめでとう!」は複雑な心境を示しています(4話、1巻100ページ)。
そしてそのとき、素直に自分の気持ちを陽子に伝えられない綾に対して、
陽子は率直な好意を逆に綾に届けるのです。

「何かカン違いしてない?」
「え?」
「手紙は嬉しいけど最初から断る気でいるよ」
「どうして!?」
「相手が誰であっても綾の方が好きだからさ!」
「…と とっとと開けなさいよ!」
「何の話してるデス?」
「友達っていいなって話ー」 (4話、1巻101ページ)


ここで陽子は劇中の王子のように、綾に気持ちを伝えています。
このように、遠くから見つめることを選んだ人魚に対し、
王子がもう一度会いたかったと伝えるラブストーリーは、
陽子と綾の、ラブレター騒動のときの経験に重ね合わせることができます。

人魚と王子は、確かに綾と陽子にこそふさわしい役であったと言えるのです。


最後に、忍とアリスについて見てみることにしましょう。
二人は無二の親友として、冒頭より登場してきます。

「はい できましたよ」
「ありがと シノ お散歩いこう!」

 シノは本当に金髪が好きだね
 ええ 宝物です アリスの宝物は何?
 シノ! (12話)


ここでは忍とアリスの宝物の不均衡が提示されています。
つまり、アリスは忍が宝物なのに対し、忍はアリスが宝物とは言っていません。
これは、私が十一話の感想で述べた、作品に対して当然湧いてくる疑問に関係します。
すなわち、アリスだけでなくカレンや他の金髪少女にも好意を向ける忍は、
外国好きや金髪好きの延長で、アリスに好意を向けているのではないかという疑問です。
今回のクラス分けの話のように、アリスが忍を恋しく思うのに対し、
忍が割と平気でいるとき、この疑惑は深まることになります。

けれども忍は、単に金髪で外国人らしいから、アリスが好きというわけではありません。
「どんなに日本人らしくなっても 例え侍になっても アリスはアリスです」。
初夢騒動のときの忍のこの言葉は、そのことを明確に示しています(11話、3巻24ページ)。
忍はアリスに関しては、単に外国好きの延長で好きなわけではないと言えます。
物語もこの忍の気持ちをなぞっていくことになります。
忍が戦いを止めるために、魔女に頼みごとをする場面に注目してみましょう。

「魔女のおねえちゃん 戦いを止めたいんです!」
「いいわよ 何でも叶えてあげる ただしあなたの大事なものと引きかえ」
「私の 大事なもの… 綾ちゃん! はさみをお持ちですか?」
「ええ」
「早くしないとみんななくなるわよ」

「シノ」
「アリス…!」

「さしあげます! 戦いを 止めてください――」 (12話)


宝物の金髪を捨て去る際に、忍がアリスのことを思い出していることが重要です。
金髪よりもアリスの方が大切であることが、ここから分かります。
劇中で忍が演じる姫はアリスのことを想うと、金髪すら捨てられるのです。
初夢の話のときに示された忍の気持ちが改めて、ここで描写されています。
二人の姫の関係の中に、普段の忍とアリスの関係を見出すことができるのです。


ここまでの結論として、忍は五人に合った役をそれぞれに設定し、
普段の五人を思い出させるような話に劇を仕立て上げています。
その意味で物語は、これまで五人が過ごしてきた日々の上に築かれている、
「五人のミュージカル」であったと捉えることができるのではないでないでしょうか。
五人が役を演じ、物語が普段の五人を思い出させる、そういう五人のミュージカルです。
それは最終回らしく、これまでのことを振り返らせる物語であるとも言えます。


また、この物語を忍だけが作っているわけではないということも重要です。
忍が語っているという体裁を取っている以上、物語の作者は忍ですが、
他の四人も助言によって、製作過程に参画し協力しています。
忍が海賊船長のカレンにさらわれたとき、一度語りは中断されます。

「シノはどうなるデス? 海の藻屑と消えマスか?」
「バッドエンド過ぎるわ」 (12話)


ここで聞き手として、綾たちが展開に意見を出しています。
また、カレンと一緒に忍が行くことを決めた後にも、一度劇外へと戻ります。

「お二人は 何の役がいいですかね?」
「私たちも出るの?」
「うーん… 綾は人魚とか」
「陽子は王子様デス!」
「え?」
「うん すごく似合ってる!」
「ではそうしましょう」 (12話)


四人の意見を受けて、忍は役を決定しています。
単に忍だけが物語を作っていくわけではなく、忍を中心に五人で作っていると言えます。
語られているのは「五人でつくる五人のミュージカル」なのです。
これまでに築かれた五人の関係、これまでに過ごした五人での日々を基にした劇は、
忍が中心ではあるものの、五人の手により作られたものとして描かれていたと思います。



○きんいろを描く絵本のような:振り返られる二つの始まり


次に、特に締め方に注目して最終話全体を眺め、まとめてみたいと思います。
第十二話は、二年生になってクラス分けが行われたという話と、
忍が物語を作り語るのに才能を発揮する話を中心に構成されていました。
後半は一年生の頃の話で、敢えて時間が戻されています。
それぞれ、第一話の内容を振り返るような締め方になっているのに注目してみましょう。
まずはクラス分けで落ち込んだアリスが、忍に慰められる場面です。

「シノはあんまり寂しそうじゃないね…」
「え? だってアリスは海を越えて来たんですよ
 それに比べれば全然です! たったの教室一個分です!」
「うん うん そうだよね!」(中略)

「一年前 シノに会いたくて日本に来た あのとき思い切って海を越えたように
 教室も越えればいいんだよね!」 (12話、3巻58ページ)


アリスが忍の言葉を受けて復活したところで、早くもエンディングが流れます。
その直前で強調されたのは、「アリスが海を越えてきたこと」でした。
物語の始まりの場面を振り返りつつ、とりあえず一回締められています。
エンディングの最中には、これまでの日々を収めた写真が映し出されます。
川遊び、夏祭り、学校祭――様々な思い出を想起させつつ、
最後にアリスが「今日も楽しいことあるかなー!」でまとめるのです(12話、2巻8ページ)。
これまでを振り返りつつ、これからを示唆する最後になっています。

少し形を変えて、これと同じことが後半にも繰り返されます。
忍が作り話を終えた後、アリスは気になったことを忍に聞いてみます。

「ねえ シノ 二人のお姫さまはずっと離ればなれなの?」
「そんなことないですよ いつだって会えますし
 ずっと友達です 私たちみたいに!
 今の時代飛行機を使えばひとっ飛びです!
「えっ? 現代の話だったの!?」
「どうなんでしょう?」 (12話、2巻108ページ)


このすぐ後、海の向こうへと飛んでいく飛行機が映し出されます。
これは第一話の冒頭と同じで、「忍が海を越えていったこと」を思い出させるものです。
前半のアリスが日本に来たことを想起させる締め方と対応する形で、
今度は忍がイギリスに行ったことを想起させる締め方になっています。
浮かんでくるのは作品のもう一つの始まりである、忍のホームステイの光景です。
そこから、アリスが忍に出した思い出深いエアメールへと繋がります。

「この手紙が始まりでしたね」
「そーだねー」
「忍ー アリスちゃん」
「はーい! 行きましょう!」
「うん! 陽子たち もう待ってるかも」 (12話、1巻8ページ)


ここでもやはり、これまでを振り返りながら、これからを示唆して終わっています。
最終話は、前半と後半で二回、この形式を取ってまとめているのです。
第一話を振り返りながら終わるという形自体はあまり珍しくありません。
注目すべきは二回それを行う中で、アリスが日本に来たことと忍がイギリスに行ったこと、
物語の始まりを告げる二つの契機を描き出しているという点です。

これがあるため、とても綺麗で印象に残る終わり方になっていたと私は思います。
 

しかし、最後に忍が物語を聞かせる話を持ってきたことには、他の意味も見出すことができます。
すなわち、「五人に語られる物語」としてこれまでのことを振り返るために、
敢えて時間を遡ってまで物語の話を持ってきたとは考えられないでしょうか。
実際に忍とアリスは、時間があればエアメールを肴に色々と語り合ったことでしょう。
それこそDVD/BDに付いてくる、キャラクターコメンタリーのような会話を挟みながら。

ここで、サブタイトルが「絵本」の題名から取られていることが活きてくると思います。
「ふしぎの国の」、「ねないこだれだ」、「きんいろのとき」辺りが分かりやすいですが、
全てのサブタイトルには元となっている絵本作品が存在しています。
そういった状況の下で最後に、忍が実際に物語を聞かせる話が登場してきます。
それも、「お話ができないと夜アリスを寝かしつけられません」という言葉と、
劇の内容から分かるように、「絵本のような」作り話を聞かせる話です(12話、2巻106ページ)。
最後を飾るのがこの話であった上で、二人が今までを振り返ることにより、
思い出が本当に、絵本のように語られるものとして表れてくるように思います。


未知の国で少女が少女と出会う、「ふしぎの国の」。
コンプレックスと不安から始まる、「ちっちゃくたって」。
新しい友達が外国からやって来る、「どんなトモダチできるかな?」。
ラブレターから始まった一騒動、「あめどきどきあや」。
二人のおねえちゃんの物語、「おねえちゃんといっしょ」。
五人で過ごす日本の夏、「金のアリス、金のカレン」。
食欲の秋だから仕方がない、「はらぺこカレン」。
学校祭と大切な記念日、「今日はなんの日?」。
トラウマにはならないお泊りの話、「ねないこだれだ」。
偶然出会った休日のある日、「すてきな五人にんぐみ」。
初夢と二人の想いを描く、「どんなにきみがすきだかあててごらん」。
これまでを振り返りこれからへ向かう、「きんいろのとき」。


語られるのはどれも、時に面白おかしく、時にシュールに、時に不安にさせながら、
いつだってどこかしらいい話になっている、優しい絵本のような物語です。
そこでは五人にとってかけがえのない、きんいろな毎日が描かれて、語られます。
最後の最後で忍が物語を聞かせる話が展開され、その後で振り返りが行われることで、
これまでがこうした絵本のような物語として、再び表れてくるのです。


アニメ『きんいろモザイク』は、きんいろを描く絵本のような作品であったと私は思います。



○関連記事

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テーマ:きんいろモザイク
ジャンル:アニメ・コミック

救われながら捕らわれて (タカハシマコ『スズラン手帖』)

2013.09.21 17:19|百合作品
スズラン手帖 (IDコミックス 百合姫コミックス)スズラン手帖 (IDコミックス 百合姫コミックス)
(2013/09/18)
タカハシ マコ

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『乙女ケーキ』から六年、タカハシマコさんの百合姫作品が発売されました。
登場人物の「特別な感情」を描いた、十二篇の作品をまとめた短編集です。
「生理痛」、「思春期」、「女の子」。
前作と同じく、そうした言葉が特徴的な、「少女」を描く作品が多いと思います。
彼女たちの痛々しいまでの心理の描写は、この作品の見所の一つですね。

また今回はあとがきにもあるように、他方で「老女」(おばあさん)の登場も多いです。
多くの経験を積んだ彼女たちが大切にしてきた、誰かとの思い出や自身の想い。
そうしたものも、この作品の抱える重要なテーマの一つであると言えるでしょう。
実際に作品後半では、「思い出」を描く短編が多いように思います。

以上に挙げた二点がかなり目を引く『スズラン手帖』ですが、
今回はその中でも『蜘蛛の糸』という二番目の短編に着目してみます。
登場人物の微妙な心理の描き方が白眉で、個人的には最も強く印象に残りました。
作中の表現などを見ながら、この作品を鑑賞してみましょう。



○自分から切れない「蜘蛛の糸」:救われながら捕らわれて


それでは、まずは『蜘蛛の糸』のあらすじを確認しておきます。
この作品は、桐子が想い人である蓮を犯そうとするところから始まります。
告白したところ、「ずっと一緒にいようね」と言われたことを受けての行動でした。
しかし、蓮は桐子が「女の子だから」、告白を本気には取っていなかったのです。
そのため桐子が覆いかぶさったところで、気まずい雰囲気になってしまいます。
縁が切られることを危惧する桐子でしたが、蓮は以下のように述べ許します。

「桐子ちゃん」
「蓮ちゃん 待っててくれたの?」
「うん さっきはごめんね」
「私… 連ちゃんにひどいこと…」
「私バカだよね びっくりしちゃって 桐子ちゃん女の子なのにね」 (22ページ)


蓮は桐子が「女の子だから」、決して本気ではなかったと捉えて許すのです。
この場面は、桐子から蓮には想いが届かないことを痛烈に示しています。
告白だろうと何だろうと、「女の子だから」蓮には伝わらないのです。
ここで桐子は、蓮に改めて自分の気持ちを伝えるかどうか迷います。

――…私が女の子じゃなかったら

「駅前のボアが月末に閉店しちゃうんだって
 だからその前にケーキ食べに行こーよ 桐子ちゃんはなに食べたい?」
「私は…」

――この糸は切れてしまったのだろう でも――…

「私はいちごかなー」
「蓮ちゃん待って! 私は… 私の心はね…」

「どうして泣いてるの? 誰かにひどいことされた?」

――まるで蜘蛛の巣に捕らえられた虫のように 私は切ることができなかった

「ううん なんでもない」 (23-24ページ)


結局のところ、桐子が蓮に想いを改めて伝えることなく、物語は終わります。
桐子は折角切れなった縁を、自分から切るような真似はできなかったのです。
たった数ページの短編ですが、「女の子だから」という言葉の残酷さと、
桐子の計り知ることのできない苦しみが、胸に残る物語になっています。

桐子が「女の子だから」縁は切れなかった、「女の子だから」告白は伝わらなかった。

さて、今回はこの作品の「蜘蛛の糸」という比喩に注目してみようと思います。
上述した場面で、二人の縁が蜘蛛の糸に喩えられていることが分かります。
この「蜘蛛の糸」という言葉は、二重の意味で使われていると読むことができます。

第一に、桐子を「救うもの」という意味で、蜘蛛の糸は使われています。
言うまでもなく、蜘蛛の糸の「救うもの」というイメージは、
芥川龍之介の小説である『蜘蛛の糸』から導かれるものです。
蓮池の縁から釈迦が罪人に蜘蛛の糸を垂らす、冒頭の部分を引用します。

 御釈迦様は地獄の容子を御覧になりながら、この犍陀多には蜘蛛を助けた事があるのを御思い出しになりました。そうしてそれだけの善い事をした報には、出来るなら、この男を地獄から救い出してやろうと御考えになりました。幸、側を見ますと、翡翠のような色をした蓮の葉の上に、極楽の蜘蛛が一匹、美しい銀色の糸をかけております。御釈迦様はその蜘蛛の糸をそっと御手に御取りになって、玉のような白蓮の間から、遥か下にある地獄の底へ、まっすぐにそれを御下しなさいました。

 (芥川龍之介、『蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ』、岩波書店、1990年8月、60ページ)


実際に、桐子と蓮の間の縁の糸は桐子を救うものでした。
蓮が出て行ってしまった後、桐子は縁が切られることを確かに危惧していたのです。
その理由はともあれ、再び蓮の側から差し伸ばされた手は救いであったに違いありません。
桐子に犯されそうになった少女の「蓮」という名前と、
物語の末尾に描かれた蓮の花(25ページ)は示唆的です。

蓮が垂らした縁の糸は、蓮池のほとりから降ろされた蜘蛛の糸であったのです。

第二に、桐子を「捕らえるもの」という意味で、蜘蛛の糸は使われています。
現に作中にも、「まるで蜘蛛の巣に捕らえられた虫のように」(24ページ)という表現があります。
蓮がもう一度垂らした縁の糸は、桐子にとって縋りたくもなる救いの糸であると同時に、
桐子がそれとは異なる関係に至ろうとすることを抑制する、粘着性を持つ糸でもあったと言えます。
実際に桐子はそれを切ってまで、もう一度別の関係を求めることはできないのです。
蓮がそれでも切らなかった二人の縁は、桐子の身動きを封じるものでもありました。

このように、蜘蛛の糸は二重の意味で、二人の縁を喩えていると捉えることができます。
桐子はこの縁の糸によって、いわば救われながらも捕らわれているのです。
救済と束縛の両方を想起させる蜘蛛の糸という言葉は、迷いながらも結局、
糸を「切ることができなかった」桐子の複雑な心境を表わすのにふさわしいものだったと思います。



作中の蜘蛛の糸という比喩に関しては以上になります。
『蜘蛛の糸』に限らず、タカハシマコさんの作品は小物による示唆がとても綺麗で、
短い作品であってもずっと心に残るんですよね。
『乙女ケーキ』で言えば、『氷砂糖の欠片』や『サンダル』がこれに該当します。

乙女ケーキ (IDコミックス 百合姫コミックス)乙女ケーキ (IDコミックス 百合姫コミックス)
(2007/06/18)
タカハシ マコ

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まず、特に深い意味を持っていないかのような顔をして、
「氷砂糖」や「サンダル」が物語にさらっと登場してきます。
そして終盤になって、それらの小物が主役に化けるのです。
作品がテーマとする少女たちの微妙な心情を、よりよく表すキーワードとなります。

小物とは少し異なるかも知れませんが、『蜘蛛の糸』で言えば、
桐子が「蓮の髪を切れない」ということが、作品のもう一つの鍵となっています。
かつて蓮が苛められていたときに、髪を切ってしまえと囃し立てられながらも、
桐子には切れなかったということが、物語の冒頭でいきなり語られます。
それだけかと思いきや、最後の最後でその表現が再登場するわけです。

「まるで蜘蛛の巣に捕らえられた虫のように 私は切ることができなかった」

そこまで至ったときの、膝を叩きたくなるような感動!
こういう表現や構成の妙は、『乙女ケーキ』と『スズラン手帖』に共通する、
タカハシマコさんの作品ならではの美点であるように思います。
ご覧になったことのない方は、是非一度、読んで触れてみてください。


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ジャンル:アニメ・コミック

忍の「アリスはアリスです」が持つ意味 (きんいろモザイク:第十一話感想) 

2013.09.16 15:04|きんいろモザイク
TVアニメーション きんいろモザイク サウンドブック はじめまして よろしくね。TVアニメーション きんいろモザイク サウンドブック はじめまして よろしくね。
(2013/08/21)
川田瑠夏、Rhodanthe* 他

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最近、上に表示した『きんいろモザイク』のサウンドブックを結構聞いています。
個人的にはキャラソンが、一人ではなく二人で歌う形式になっているため、
曲の最中に入る、二人のテンポの良い掛け合いが軽快で好きです。
CMでも流れている、『きんいろ+ぎんいろモクセイ』は特に楽しいと思います。

さて、第十一話「どんなにきみがすきだかあててごらん」が放送されました。
いよいよ残すところあと一話になってしまいましたが、最後まで楽しもうと思います。
原作も四巻がもうすぐ発売されるので、まだまだ楽しみはたくさんあります。

今回は本題に入る前に、前回の記事に関連して、ある場面を引用してみようと思います。
クリスマスプレゼントを忍とアリスの二人で交換するところです。

「念願のプレゼントタイムです!」
「わー かわいい!」
「! …シノ これ何?」
「イギリスで拾った石です 私の一番の宝物です」
――どうしよういらない でも… シノからのプレゼントだし
「あ ありがと…」
「アリス~昨日の写真いる? 忍のコスプレ写真」
「いる~! わ~イサミ! ありがとう~!!」
「あれ?」 (11話、2巻118ページ)


ここで忍は自分の大切だと思うイギリスの石をあげてしまったため、
アリスにあまり喜んでもらうことができませんでした。
これは第四話の以下の場面と対になっていると取れます。

「実はね 昨日シノにプレゼントを買ってきたの」
「誕生日プレゼントデス!」
「えー! そんな! ありがとうございます」
「私は扇子だよ」
「わー素敵!」
「私は外国の切手デス」
「わー! カレン! どうして欲しいものが分かったんですか?」 (4話、2巻81ページ)


アリスはここで扇子を送り、忍に喜んでもらえてはいるものの、
カレンの外国の切手と比べると、喜び様に明らかな差があります。
そして、「シノはカレンの方が好きなの?」と涙目で尋ねることになるのです。
ここでアリスは忍と同様に、自分の好きなものを送って失敗してしまっています。
二人は本当に似た者同士で、相互に同じことを行っていると言えます。

忍とアリスの「双方向の関係」がここにも見出せるのではないでしょうか。



○一年生最後の物語:「アリスはアリスです」という回答の持つ意味


第十一話では、最後に卒業式の情景が描かれ、
五人がいよいよ二年生になるということが示されました。

「もうすぐみんな お姉さんになりますね」
「え?」
「だって 春になったら二年生ですよ」
「そっか 進級だ」 (11話、3巻48ページ)


最終話でこの場面を持ってきて締めてもよかったと思うのですが、
アニメは第十一話で敢えて五人の一年生時代を終えたわけです。
個人的にはこの後、最終話でどのように締めるのか、俄然楽しみになりました。

今回は、この場面の挿入により結果的に「一年生最後の話」になった、
初夢の話(3巻17ページ~)に注目してみたいと思います。
原作で言えば、これは一年生最後の話ではありません。
この後にアニメでもやった、かくれんぼの話(9話)と忍と陽子の話(5話)があります。
本来であれば陽子が昔は忍の姉のような存在だったという話から、
上述の「もうすぐみんな お姉さんになりますね」に繋がるわけです。
その順番を微妙に崩した結果、最後になった初夢の話を考えてみようと思います。

けだし初夢の話は、作品の描く関係に対する重要な疑問に答えています。
すなわち、「忍はアリスのことが好きなのか」という疑問です。
もしかしたら考えるまでもないと思うかも知れませんが、
これは作品が当然直面する問題であったと思います。
以下、これまでの話を見ながら詳らかに説明していきます。

まず、忍はアリスと出会う前から、イギリスを初めとした外国に興味がありました。
だからこそホームステイに行ったということは、一話で詳しく描かれた通りです。
ゆえに次のように考えることができてしまいます。
すなわち、忍は外国が好きな延長で、アリスのことが好きなのではないか。
アリスの外国人らしいところを、忍は好んでいるのではないか。

アリスもホームステイの時点で花札を知っていたため、元々日本に関心はあったと考えられます。
しかし彼女の場合、忍と出会ってから日本語を勉強し、留学してきたという事実のために、
日本が好きな延長で、忍が好きなのではないかという疑問は持ちにくいと言えます。
それに対して忍の場合、そうしたアリスと出会ってからの変化があまりないばかりか、
カレン(3話)や金髪の双子少女(10話)にも好意を向けています。

そのため外国を感じさせるから、アリスが好きなのではないかと考えられてしまうのです。

実際に初夢の話では、この問題がアリスによって取り上げられます。
自分は日本人らしいために、忍に愛想を付かされるのではないかと不安に思い始めるのです。

「ごめんねシノ 嫌われてるって思ったのはわたしの方なんだよ」

「玄関の敷居は踏んじゃだめだよ」
「アリスは何でも知ってますねー!」
――日本に来てからいつのまにか 日本人より日本人らしくなってる自分に気付いたの

――そして事件は起こった…
「えっこのナレーション何?」

「今年もよろしくね シノ」
「はい それはそうとアリス アリスは日本に慣れ過ぎてダメです
 私は今 他のブリティッシュガールに夢中ですよ」
「初夢から縁起悪すぎだよ!!」 (11話、3巻23ページ)


その結果、アリスは全力で英語を使い出すことになります。
このアリスの不安は、先に述べた問題に結びついています。
忍はアリスの外国人らしい部分が好きなのではないか。
そういった考えがあるからこそ、日本人らしくなることが、
他のブリティッシュガールより魅力で劣る要因になり得るのです。
忍はカレンが来たときに、外国人らしい「カタコト」に惹かれているため、
アリスの心配はもっともなことであると考えられます。

この重要な問題に対する答えが、すぐ後の場面で提示されます。

「事情は分かりました アリスはすごいですよ
 私もアリスと英語で話せるように勉強頑張りますね どんなに日本人らしくなっても
 例え侍になっても アリスはアリスです」 (11話、3巻24ページ)


ここで忍は、アリスがどれだけ日本人らしくなったとしても、
それをアリスとして受け入れると表明することで、先の重大な問題に答えています。
忍はアリスが外国人らしいから好きというわけではなくて、
アリスがアリスであるから好きなわけです。

どこまで日本人らしくなっても、忍の想いは変わりません。
単なる金髪少女として好きなわけではないことが、ここに表れています。

結論として初夢の話は、不安になったアリスへの忍の言葉によって、
彼女が外国を好きな延長で、アリスのことが好きなわけではないことを示しています。
忍は確かに外国マニアで、金髪少女フリークですが、
アリスが好きな理由はそうした嗜好だけに還元できないのです。
これを示したという点で、初夢の話は『きんいろモザイク』という作品に関する、
最も重大な疑問に答える話であったと言っても過言ではないように思います。

初夢の話はその意味では、「一年生最後の話」に相応しかったのではないでしょうか。

忍のアリスへの想いを改めてきちんと描いた上で、アニメはいよいよ最終話に至るのです。


テーマ:きんいろモザイク
ジャンル:アニメ・コミック

忍とアリスの双方向の関係 (きんいろモザイク:第十話感想)

2013.09.11 17:16|きんいろモザイク
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(2013/09/27)
原 悠衣

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もうすぐ原作四巻が発売されるので今から楽しみです。

アニメは第十話「すてきな五にんぐみ」が放送されました。
アニメの各話タイトルは毎回絵本の題名から取られていますが、
今回の元ネタは、三人の強盗を描いた作品『すてきな三にんぐみ』ですね。
タイトルに沿って、第十話は外部から「すてきな五にんぐみ」を眺めるような話になっています。
すなわち、烏丸先生が主役となって、五人と関わっていくという形にまとめられているのです。
冒頭での彼女の語りと、末尾での登場が、その印象を強めています。

さて、本題に入る前に少し余談を挟もうと思います。
ご存じの通り、忍はテストで点を取ることが苦手で、今回も英語で十点を取っていました。
先日視聴していて、ふとそのテストの内容が気になったので一時停止で確認してみました。
以下が烏丸先生が作ったであろう小テストの問題と、忍の答えです。
家のテレビの性能の問題で、細かい部分は間違っているかも知れません。


1. 次の単語を書きなさい。
(1)共同社会 pablik (2)公共の、大衆 lessn (3)練習・習慣 pablik
(4)~を比較する 空欄 (5)言葉・言語 langage

2. 次の単語を使って日本語の文を英語にしなさい。
(1)私が描いたその絵を気に入ってくれるといいなあ。(hope/drew)
  I hope drew pictur.
(2)私に会いに来ませんか。(why/see)
  Why see me.
(3)陽子は綾と買い物に行くに違いない。(going/go)
  Yoko going go to shopping.


こうして見ると、ところどころ烏丸先生らしさの漂う問題だったり、
忍のミスが結構あるあるなものであったりすることが分かりますよね。
頑張って勉強しているのだけど、本当に分からないという感じが伝わってきます。
眺めていて、何となく高校時代のテストが懐かしくなりました。
細かい部分に注目してみるのも、個人的にはアニメ視聴の楽しみだと思うので、
本筋にあまり関係はないですが、最初にテストに少し注目してみました。



○忍とアリスの双方向の関係:占いについてと嫉妬について


今回は、作中で描かれた「二人の関係」に注目してみたいと思います。
前回は第六話の感想に続いて、再び「五人の関係」に着目しましたが、
その中で二人の関係はどのように描かれているのでしょうか。
とりわけ第十話の忍とアリスの関係に照準を合わせていきます。
けだし二人の関係には「双方向性」、「相互性」を見出すことができます。


まずは、占いの話の中での二人の関係を見てみましょう。
朝の占いで最下位になってしまったアリスは、
それを結構引きづりますが、忍のおかげで暗い気分から解放されます。

「当たる気がしないよ」
「ドンマイドンマイ ナイススイング!」
「諦めるのはまだ早いデス」
「でも 今日運勢も最悪だし…」
「フレーフレーアリス 頑張れ頑張れアリス 頑張れ頑張れアリス オー!」
「シノ…」
「打てますよ 大丈夫です」
――占いよりシノを信じる…! (10話、2巻53ページ)


ここで実際にバットを当てたことにより、アリスは下向きな気持ちを払拭します。
忍がアリスに悪い占いの結果を乗り越えさせたと言えるように思います。
これとちょうど同じことを、この後アリスも忍に対して行っています。

「今月の星占いは…」
「星占いですか? ふたご座はどうでしょう?」
「え? 今月の占い しのはあまり良くないみたい」
「え そうなんですか」
「占いなんて関係ないよ! シノはすっごくポジティブなんだから」
「ありがとうございます 私はアリスが居るだけで幸せなんですよー
 アリスはまるで 魔除けのお守りですね」 (10話、2巻58ページ)


ここではちょうど正反対に、アリスが忍を明るい気分にしています。
占いに関しては、忍とアリスがお互いに対して同様に振る舞っていると言えます。
例え占いが悪い結果であっても、相方がいれば二人は大丈夫なのです。


次に、二人の嫉妬の感情に注目してみましょう。
それを厳密な意味で「嫉妬」と呼べるかどうかは分かりませんが、
少なくとも相手と距離が近いと考えられる誰かに対して、二人は同様の感情を抱えています。
アリスは今回の話の中では烏丸先生に対して、複雑な感情を抱いています。

「それでシノがね ここ分かりづらいって
 シノ完了形が苦手みたい シノ五つ以上単語が並んでいるとダメなんだって」
「アリスさんは本当に大宮さんが好きですね 先生も好きですよ~」

――何!? この表情!! (10話、2巻35ページ)


この後、アリスは烏丸先生を「じーっ」と見守る(見張る)ことにします。
前回のかくれんぼの話のときもそうでしたが、
忍は度々烏丸先生への好意を示すため、アリスは危機感を抱いています。
「シノと仲良すぎるのはちょっとダメなんだけど…」と思っているのです。
忍もアリスと同様の危険を、勇に対して覚えています。

「忍は アリスが店先で売られていたらいくらで買うの?」
「どういうことなの!?」
「うーん それは難問ですね」
「そんな 本気で悩まないで…」
「うーん じゅ… 10万円…!!」
「安い!!」
「10万って安いですか!?」
「や 安くないけど わたしは人形じゃないんだよ もーっ イサミ!」
「そうねぇ お友達はお金じゃ買えないわよねー」
「イサミの言う通りだよ!」
お姉ちゃん 実は詐欺師ですね!?
「モデルよ」 (10話、2巻)


忍は基本的におおらかでのんびりしていますが、
勇に対してはアリスを取られるかもしれないという意識を持っています。
これはアリスが烏丸先生に対して抱く感情と同様のものと取ることができます。
実際に忍は「お姉ちゃんにはかないません」とまで言っています(3話、1巻58ページ)。
忍がこうした気持ちを表に出すことは珍しいため、貴重なワンシーンと言えるでしょう。
私にとっては個人的にかなり好きな部分です。


以上のように、忍とアリスの関係には「双方向性」「相互性」が見出せます。
占いに関しては、忍がグラウンドでアリスに暗い気持ちを払拭させたのと同じように、
アリスも本屋で忍に暗い気持ちを払拭させていました。
またアリスが烏丸先生に抱く感情と同様のものを、忍も勇に対して抱いていました。
作品の中で二人の関係は、このような形で描き出されていると言えます。
この双方向の、あるいは相互の関係は、作品の魅力の一つであると思います。


テーマ:きんいろモザイク
ジャンル:アニメ・コミック

『ゆるゆり』を百合作品として読む ――ちなつとあかりの関係から

2013.09.08 16:20|百合作品
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なもり

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今回は『ゆるゆり』の、ちなつとあかりの関係に着目してみようと思います。
『ゆるゆり』は、他の作品と比較した場合の「ゆるさ」に目が行きやすい作品です。
しかし必ずしも作中で、人物の関係が変化せず「ゆるい」ままであるというわけではありません。
いわゆるサザエさん形式の作品とは言え、その中で関係は確実に深化しています。
ここでは「『ゆるゆり』を百合作品として読む」と題して、その側面に注目したいと思います。
とりわけ一例として、ちなつとあかりの関係の変化を明らかにしていきます。

もしよろしければ、少しの間お付き合いください。



○『ゆるゆり』を百合作品として読む ――ちなつのあかりへの感情の変化


今回は原作の中でも、ちなつとあかりが二人きりになる三つの話を考えます。
すなわち、ちなつがあかりとキスの練習をする「恋をしようよっ♪」(2巻111ページ)、
ちなつがあかりにマッサージをする「私ってテクニシャン?」(4巻153ページ)、
ちなつがあかりとデートをする「初恋シミュレーション」(9巻5ページ)の三つです。
この中で、ちなつのあかりに対する態度は明らかに変化しています。
以上の三つの話を、時系列順にそれぞれ確認していきましょう。


まずは、「恋をしようよっ♪」です。
夏休みということで、恋愛を頑張ろうと思い立ったちなつが、
自宅にあかりを呼んで、結衣のことについて色々と聞き出します。
そのうちちなつはエスカレートして、あかりにキスの練習を提案します。

「ねえ…あかりちゃん キスの練習手伝って」
「ええええええ」
「なんでもするって言ったでしょ! ほら どこいくの!」
「言ったけど! 待って待って」 (2巻118-119)


ここではちなつは終始、あかりよりも前に結衣を見ています。
そもそもこの話では、結衣と二人きりで遊ぼうと電話したところ、
京子と一緒にいることが分かったため、諦めてあかりを誘ったのです。
ちなつはあかりを自宅に招いたとは言え、彼女に結衣のことを聞いたり、
結衣との本番を想定して、彼女と練習を強行したりするのみでした。
ちなつの頭には、常にあかりより先に結衣がいたと言えます。
換言すれば、あかりといるときでもちなつは結衣のことを考えていたのです。
二巻「恋をしようよっ♪」の時点では、このような状態でした。


次に、「私ってテクニシャン?」です。
結衣と京子が修学旅行で京都に行ってしまったため、二人は部室で二人きりになります。
ちなつはしばらくその事実に落ち込んでいましたが、あかりに慰められ立ち直ります。

「ありがと あかりちゃん 少しだけ元気出たかも」
「ううん ほんとのこと言っただけだもん」
あかりちゃん優しいな 私ね 結衣先輩のことになると
 ちょっぴり周り見えなくなっちゃうけど… ずっと仲良くしてくれたら嬉しいな
「! もちろんだよーっ ちなつちゃんはあかりの大切なお友だちだよ」
「ホント? ありがとー じゃあこないだ結衣先輩のこと相談に乗ってもらったし
 今日は私があかりちゃんのお願い聞いたげる!」 (4巻158-159ページ)


先程の「恋をしようよっ♪」とは異なることがよく分かる場面だと思います。
ちなつはここで、結衣のことについて親身に相談に乗ってくれるあかりを認めています。
この時点では、あかり自体がちなつにとって大切な存在になっているのです。
ちなつが部室に入ってきてすぐに、かなり落ち込んだことを鑑みると、
彼女の中での結衣の重要性は依然群を抜いていますが、
あかりの存在も確実に大きくなり始めていると言えるでしょう。

あかりへの感謝の言葉と、その後のマッサージはそのことを一応明示しています。


そして、「初恋シミュレーション」です。
結衣と初めてデートに行くときの予行練習ということで、
ちなつはあかりを結衣役としてデートに連れ出します。
その最中に、ちなつはあかりを雑貨屋へと誘います。

「つ 次はどこ行こっか?」
「そうねぇ じゃあ適当に色々まわろっか
 雑貨屋さんとか! あかりちゃん好きでしょ?」
「えっいいの? 予行練習なのに」
「うん! そりゃ予行練習も大切だけど
 あかりちゃんとのこの時間も大切でしょ?」 (9巻11ページ)


話の展開自体はキスの練習を思い出させるものですが、
ここで二人の関係の進展、ちなつの感情の変化を見出すことができます。
上述のちなつの言葉は、彼女の中であかりと結衣が同列にあることを示しています。
もちろん、ちなつはあかりに、結衣に向けるようなあからさまな好意は向けません。
しかし、全く違う方向ではあれど、あかりも結衣と同様に大切な存在であることは、
「あかりちゃんとのこの時間も大切でしょ」という一行に表れています。

当初、あかりを目の前にしても結衣のことを第一に考えていたちなつが、
ここでは予行練習よりもあかりとの時間を優先しているのです。


このように、ちなつとあかりの関係は次第に深化しています。
特にちなつがあかりに抱く感情というのは、明らかに変化しているのです。
今回は私が好きであることもあって、特にちなつとあかりの関係に注目しましたが、
これは他の登場人物の関係であっても言えることであるように思います。

『ゆるゆり』は、その相対的な「ゆるさ」が問題にされがちな作品です。
もちろん、「ゆるさ」も『ゆるゆり』の一つの要素と言えるでしょう。
しかし、その内で描かれる登場人物の関係の深まりは、
確かに百合作品を特徴づけるものであると思うんですよね。
時系列に従って、作中のある二人の関係を改めて眺めてみることで、
その「百合」の側面は顕著に表れてくる気がします。
『ゆるゆり』を、改めて百合作品として読んでみるのも面白いのではないでしょうか。



○関連記事

   撫子の彼女についての考察 (なもり『大室家』)


テーマ:ゆるゆり
ジャンル:アニメ・コミック

仲直りの場面を「見守る」三人 (きんいろモザイク:第九話感想)

2013.09.06 12:01|きんいろモザイク
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アニメは第九話、「ねないこだれだ」が放送されました。
今回はみんなで綾の家に泊まる話(2巻17ページ)、
綾がカレンに弟子入りする話(3巻9ページ)、
みんなでかくれんぼする話(3巻25ページ)を中心にまとめられていました。
作画が結構ふわふわしていましたが、特に忍が可愛かったと思います。
ここぞというところの表情で仕留めに来ていた印象があります。

kinniro15.png
 (カレンのハンカチに興味を示す忍:9話)

kinniro16.png
 (烏丸先生を見つけて駆け寄る忍:9話)

何か好きなものに当たっている忍は本当に輝いていますね。
原作の四コマでも、ここぞというところの表情がいいことが多く、
カレンのハンカチに興味を示す場面の忍は同様に可愛いです(3巻34ページ)。
原作の忍は、横顔に勇の面影を宿していると感じます(2巻76ページなど)。
また今回の話の中だと、綾と陽子が仲直りでノートを買う場面で、
綾の見せる表情が綺麗で秀逸です(3巻15ページ)。

アニメから興味を持った方は、原作も素晴らしいので、
もし購入されたらそうした部分に注目してみるといいと思います。
アニメ絵の場合とはまた違った良さがあります。



○みんなをよく見ているカレン:仲直りの話に見出せる「見守る」


まず、今回はカレンの特徴がよく表れていたため、そこに注目します。
綾の家に泊まりに行ったとき、カレンは綾の手をさっと握ります。

「いらっしゃい! 待ってたわ」
「おじゃましますー」

「陽子ちゃんは?」
「まだ来てないの 寒かったでしょ? 中に入って」
「… 手 冷たいデス」
「もしかしてずっと外で待ってたんですか!?」
「来るのが遅くて心配して… なんかいないんだからね!!」 (9話、2巻19ページ)


ここでカレンは、綾がずっと待っていたことに気が付いています。
同様に、綾が陽子と喧嘩してしまったと悩んでいるときも、
カレンはその様子に気が付いて綾に声をかけています。

「アヤヤ! 何か悩みゴトデスかー? 今日はいい天気デスね♪」
「カレンはいつも元気ね 素直でフリーダムで羨ましいわ」
「OH! フリーダム!」 (9話、3巻9ページ)


カレンはみんなを盛り上げるムードメーカーですが、
陽子並みに周りのことを気にかけているんですよね。
上記の場面のように、特に綾との関係でそれは顕著になります。
みんなのことをよく見ていることも、カレンの特徴の一つと言えるでしょう。
陽子の半分が優しさでできていること、綾のほとんどがヨーコでできていることを、
的確に指摘して見せたことからも、このことは分かります(5話、2巻43ページから)。


次に、綾と陽子が仲直りする場面に注目してみましょう。
二人はおそろいのノートを買って、仲直りの証とします。

「いや ほんと全然気にしてないからさ」
「そうなの?」
「なんだ てっきり綾に嫌われたかと思ってたよ」
「え 違うわ!」
「じゃあ仲直りにおそろいのノートを買おう」

――かわいい… 花柄なんてシュミじゃないくせに 陽子ったら カレンだったら…
――わあ陽子 かわいい♪ ありがとデスー!

「……陽子 あ ありがとう!」 (9話、3巻15-16ページ)


ここで忍とアリスとカレンが二人を見守っていることが重要です。

kinniro17.png
 (生暖かい目で二人を見守る三人:9話)

これと全く逆の構図が、第四話で提示されています。
すなわちアニメでは、忍を巡ってアリスとカレンが喧嘩し、
その後仲直りしたときは、陽子と綾が三人を見守っていました。
今回の話はそれとちょうど対応するような話になっているのです。

kinniro07.png
 (忍とアリスとカレンを見守る陽子と綾:4話)

二つの話の共通点は「仲直りする話」であるということです。
その光景を他の人物たちが見守っているという形になっています。
仲直りの話である以上、重要となるのは喧嘩した二人ですが、
その二人が五人から分離して描かれるのではなく、
あくまで五人の中で、特にその二人の関係が描かれているのです。

見守っているところが描かれていることで、
完全に二人の物語になるのが妨げられているように思います。

以前、五人の時間の中で二人の時間が描かれていると書きましたが、
先の二つの仲直りの話もそのようになっていると言うことができます。
今回のように、誰かに特にスポットライトが当たっているときは、
むしろそれ以外の人物がどのように振る舞っているかを見てみると、
物語を「五人の物語」として改めて捉える契機となります。
中でも「見守る」という動作は、『きんいろモザイク』が「五人の物語」であることを、
端的に示すものであると考えることができるのではないでしょうか。


テーマ:きんいろモザイク
ジャンル:アニメ・コミック

二人は二人で「自分」を掴む (慎結『星振り坂一丁目三番地』) 

2013.09.01 11:55|百合作品
星振り坂一丁目三番地 (IDコミックス 百合姫コミックス)星振り坂一丁目三番地 (IDコミックス 百合姫コミックス)
(2013/08/17)
慎結

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あの日、通り過ぎた恋のような、透き通って切ないガールズ・ラブ作品集。 (帯より)


慎結さんの作品が先日発売されました。
高校生や大学生のみずみずしい想いを描いていく短編集です。
今回は特に、「サクラフル」を中心に紹介していこうと思います。

それとは別に印象に残ったのは、「my sweet clover」でしょうか。
緋衣と七葉と江鈴の「三人の関係」が描かれていきます。
後半の七葉の言葉が物語の核であると思います。

あたし いつも二人のまんなかがいい
 どっちか選ぶとか選ばれないとかじゃなくてね
 だめかなぁ あたし わがままかなぁ」

「だめなんかじゃ ない!」
「まぁね あたし七葉のこと絶対ゆずらないし!」 (133-135ページ)


三人は作品内で、三人という関係を選び取るのです。
緋衣と江鈴は二人とも七葉に好意を寄せており、ここでも衝突しているわけですが、
お互いにそれは敵意ゆえにではなく、ただならぬ感情も抱いていることが描かれています。
クローバーの葉っぱのように、三人がそれぞれ等間隔にある関係が目下の終着点なのです。
ここで提示される関係が非常に特別で、注目すべきものであると思います。
スタンダードな二人の恋人関係とは異なる関係を、是非ご覧になってみてください。



○二人は二人で「自分」を掴む:みうと英子の関係


さて、それでは「サクラフル」の紹介に入ろうと思います。
短編集の先鋒を飾る本作を読むと、まずは「サクラ」や「花びら」を使った表現が胸に残ります。
けれども今回は、この中で描かれるみうと英子の関係に注目することにします。
みうと英子の形成した関係は、どのようなものだったのでしょうか。
最初に物語の概要を確認しておきましょう。

春、好きな男子にフラレタ。
「お嬢様じゃないとつき合う気がしないし」って。
そんな時、お嬢校の女子に声かけられ、なんか懐かれた。
ウザイ、メンドクサイ、コンプレックス刺激すんな…って最初は思ってたのに…。
フツー校女子×お嬢様「サクラフル」。 (裏表紙より)


ここで言うフツー校女子がみうで、お嬢様が英子です。
英子は母親の指示に従って生きてきた、「自分」のない自分とは異なり、
「素直」(15ページ)に生きているみうに惹かれ、彼女に懐いていきました。
そんな英子と関わるうちに、みうも彼女に次第に惹かれていきます。
しかし英子の母親は、身分違いということで二人を遠ざけようとしました。
そこでみうは、一瞬へこんだ後、英子を連れ出すために立ち上がります。
以下の場面はそのクライマックスで、みうが英子に語りかけるところです。

「英子! 一緒に帰るよ!」
「みうさん 私は…」
「まだ二人でプリ撮ってないし!」
「母が失礼なことを言ったと思います ごめんなさ…」
英子は!? 英子はどうしたいの!? 自分で考えろ!

「わ 私は… みうと一緒にいたい ずっと ずっと!」(24-26ページ)


ここの「自分で考えろ!」が個人的にすごく好きです。
英子はこの一言により、これまで難しい哲学書を読んでまで必死に探し、
それでも見つけられなかった「自分」を、確かに掴み取っています。

「みうと一緒にいたい」という想いの下に、確かに彼女自身はいるのです。
二人はそのまま自転車で、一緒に遠くへと駆けて行きます。

こうしてみると「サクラフル」は、一般人がお嬢様を助けるという、よくある話にも見えます。
けれどもこの話において重要なのは、みうも英子に助けられているということです。
すなわち、英子がみうのおかげで「自分」を掴むことができたのと同じように、
みうも英子のおかげで「自分」を改めて掴むことができているのです。
詳しく見てみることにしましょう。

まず、概要にもあるように、みうは英子と出会う前に男性に告白して深く傷ついています。

「お前がオレのこと好き?」
「冗談は偏差値だけにしろよ」
「オレ成涼女子みたいなお嬢様じゃなきゃムリだし」
「お前南高だろ? まじカンベンだよ」 (5ページ)


みうは傍から見ると、このことについてあまり気にしていないように見えます。
しかし英子と出会ったとき、また英子の母親に突き放されたときに、
このときのことを思い出していることを鑑みると、
その男性の言葉が深くみうに刺さるものだったことに疑いはありません。
それは強烈な「自分への否定」であり、彼女を苦しめる記憶になっています。
そして、みうにこれを乗り越えさせたのが、他ならぬ英子であったと言えます。

そっか そういえばあたし 失恋したんだっけ
なんか どうでもよくなってる
それより英子と話したい 英子を見ていたい (17ページ)


ここでは英子への想いが、自身のコンプレックスを忘れさせています。
英子の存在は、みうに自分を回復させるものであったと言えるでしょう。
さらに英子の母親に近付くなと言われたときには、
みうは英子への想いを糧に、その過去を乗り越えています。

「お前 南高だろ マジかんべん」

きっと いつかはこうなってた
桜の季節は すぐに終わるから
なのに なんで泣いてんの あたし
胸の奥に 花びらがつまって 息が できないよ (中略)

「もう失恋したの? 前より重症だ――」

してない まだ してない
あたしは あたしのままで (21-23ページ)


こうして、みうは英子のところへと駆けて行きます。
嫌な過去を思い出した上で、それを乗り越えていることが分かります。
彼女もまた、かつて否定され揺らいだ「自分」をここで確立しているのです。
二人の関係があったから、ここで嫌な記憶に打ち勝って駆け出すことができたと考えられます。

よって「サクラフル」は、みうが英子に「自分」を掴み取らせて、
彼女を助け出すというような一方的な物語ではありません。
二人が二人で「自分」を掴み取る物語です。
みうは英子のおかげで「自分」を否定した過去を克服し、
英子はみうのおかげで探していた「自分」を獲得する。
そうした相互の関係を、この作品は描いていると言えるでしょう。


テーマ:百合
ジャンル:アニメ・コミック

プロフィール

Author:天秤
天秤と申します。
アニメや漫画など、好きなものについて考えたことを書き込みます。
よろしくお願いいたします。

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