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律の選択と由乃の考え方の関連性 ――由乃が「妹の部屋」を語る意味

2016.06.19 17:07|マリア様がみてる
今回は、『マリア様がみてる』の「ステップ」について考えていきます。
「ステップ」は、本編の面々は登場しない、独立した短編スタイルの物語ですが、
それでいて特に由乃たちとの深い関わりを持っている物語です。
詳しいことは、敢えてここでは述べませんが、
その由乃たちとの関連が、この物語の一つの種であり核となっていると言えるでしょう。
この記事では、そういった関わりの一つとして、「ステップ」における律の選択と、
「くもりガラスの向こう側」における由乃の考え方との間の関連性について指摘したいと思います。

「ステップ」は、「くもりガラスの向こう側」における由乃の言葉を想起させる、
確かにそこと繋がっている物語で、由乃が祐巳より先に、
「『姉の部屋』や『仲間の部屋』とは別に、
『妹の部屋』がある」という考え方に至っていた理由を、「ステップ」の中に見出すこともできます。

「くもりガラスの向こう側」で、
由乃は「幸せだけれど冷たい風が入ってくる」と述べた祐巳の気持ちについて、
「『姉の部屋』や『仲間の部屋』が満ち足りていても、
増築してしまった『妹の部屋』が空っぽだから」と的確に説明して見せるのですが、
これについては考察点たりえます。

つまり、何故由乃が祐巳に先んじて、
そういう考え方を既に持ち得ていたかということが、考えるべき問題たりえるんですよね。
後に、由乃自身が祐巳に置いてかれるという焦りの感覚を抱く場面があるだけに、
由乃が祐巳に教える「くもりガラス」の先の場面は目立ちます。

当然由乃には菜々のことがあるので、
彼女との経験をもとにそう語ったとも考えられますが、
由乃が菜々用の部屋を完成させたのは、思わず菜々を応援した、
「黄薔薇真剣勝負」のときで、「くもりガラス」の時点では当人の言うように、
「増築工事真っ最中」であったと思われるんですよね。

そういう過渡期の状態にあった由乃が、
妹ができたからといって姉に向ける気持ちが減るわけではないという、
「別の部屋」思考を早くも祐巳に先んじて身につけていた理由を、
「ステップ」に見出すことができます。
由乃の傍には、それを体現している人たちが常にいたのです。

「ステップ」の律の「男の人の中で一番、じゃだめですか」は、
まさしく「別の部屋」思考に基づく告白であって、律が佳月の入っている部屋とは別に、
甲太の入る部屋を作っていなかったらし得ない告白と言えます。
そして、そういう考え方に基づいて、実際に佳月とともに家まで建ててしまう。

というところまで考えると、
由乃が祐巳に「『妹の部屋』は他の部屋とは別」ということを教えることは、
なかなかに象徴的なことであると言えます。
由乃は、自身が妹の部屋を増設中だろうと、
その考え方を自然に身に着けて語ることができる立場にある。
このことが、「ステップ」からは具体的に分かります。

結論として、「くもりガラスの向こう側」で他の誰でもなく由乃が、
「別の部屋」という考え方を祐巳に教えるのは、
由乃がそれを成すのに最も適当であったためと考えられないでしょうか。
由乃はそういう考え方を自然に身に着けられるような家でずっと育ってきたんですよね。


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祐巳の中での祥子の存在の相対化について ――聖や優との関わりを踏まえて

2016.04.03 15:19|マリア様がみてる
今回は、『マリア様がみてる』という作品において、
祐巳が瞳子にスールになるようお願いするまでの間に、
祥子の存在を相対化することに成功しているということについて短く論じようかと思います。
けだし、祐巳の二年生後半からの物語において、
彼女の成長の主だったものとして描かれたのは、この「相対化」でした。
ここに注目して、祐巳について考えてみたいと思います。

祐巳が瞳子を妹に迎えるまでの間で、
祐巳が祥子への感情を相対化することに成功していることは、
あまり触れられませんが、彼女の成長の一つだったと思います。
原作の言葉を借りれば、祐巳は十二月の告白のときまでに、
彼女の心中に「瞳子用の部屋」を作り終えています。
これは、それまでの祐巳からの大きな変化でありました。

なぜなら、祐巳はこれまで「好き」の気持ちを向ける相手、
すなわち彼女の心の中に専用の重要な部屋を持つことができる相手として、
祥子しか想定していなかったと考えられるためです。
祐巳が「分からない」、理解できない相手として、
聖や優を相手取られるのは、祐巳の中にその前提があったからです。

祐巳は、この二人の考え方が当初理解できませんでした。

すなわち、まず祐巳は志摩子を妹に持ちながら、
彼女に姉妹らしい感情を向けず(選挙時)、
むしろ自身に好意を向けて来る聖に対して疑問を覚えていました。
これは祐巳の中で姉妹(彼女にとっては祥子)への感情が絶対的であったことを示します。
ただ一人の特別な存在としての祥子があってこそ、聖の態度へ疑問を抱き得るのです。

また、ミルフィーユでの優への敵意は、祐巳が祥子の中での自身と優を、
同一直線に並べて比べようとしていることから生じたものです。
しかし優は「好きにも色々ある」という立場であるから、
「もっと高いステージを目指せ」と言いました。
これについても、このときの祐巳には理解できませんでした。

聖と優は、無印の頃から反目しあう間柄ですが、祐巳との関係においては、
同じく「好きにも色々ある」ということを教える立場を担っています。
それを学んで、祐巳にとって最高位にあった祥子への感情は、
ここにきてその地位を下げないままに、彼女の持つ「大切な部屋のうちの一つ」になります。

つまり、それまでは絶対的だった祥子への感情を祐巳は相対化し、
他の感情とは異なり、かつ、同列のものとして、心中の一室に仕舞うことを覚えたのです。
まず瞳子や仲間たちが同列の、しかし祥子とは異なる部屋に入れられるのですが、
薔薇さま選挙を経ると、祐巳はリリアンの生徒まで入れることに成功します。

すなわち、祐巳はバレンタインのチョコ探しで、昨年の祥子と同じように、
瞳子だけが察するであろう場所に隠そうとしながら、最終的にそれを止めました。
これが祐巳の達成した相対化の極致であると言えます。
乃梨子の言うように、「瞳子(姉妹)だけ」を考えるところから抜け出したのです。

まとめると、祐巳は彼女の中で「祥子が絶対」という当初の状況から、
聖や優とのやり取りや、自身の中で大きくなる瞳子の存在を通して抜け出して、
それを相対化していき、最終的には、選挙中にあった瞳子の母親との会話を契機に、
一般生徒まで自身の中に入れることに成功したのです。
こうした「相対化」が、祐巳が瞳子を妹に迎えるまでに経験した、
成長の一つとして描かれていたのではないでしょうか。



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   祐巳が瞳子の姉になるまで:「姉の心情」の否定

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   ミステリーからリトルホラーへ (『マリア様がみてる リトル ホラーズ』「ワンペア」)
   これからの祥子と歩む祐巳への ――優の「もっと上のステージを目指せよ」が持つ含意
     (『マリア様がみてる 薔薇のミルフィーユ』)


テーマ:マリア様がみてる
ジャンル:アニメ・コミック

これからの祥子と歩む祐巳への ――優の「もっと上のステージを目指せよ」が持つ含意 (『マリア様がみてる 薔薇のミルフィーユ』)

2015.10.25 18:09|マリア様がみてる
今回は、『マリア様がみてる 薔薇のミルフィーユ』について考えます。
時期としては、祐巳が瞳子との問題に本格的に直面する直前、
一冊の本の中に、紅薔薇、黄薔薇、白薔薇――それぞれの姉妹の物語を詰めた、
題名どおり薔薇がミルフィーユのように折り重なった作品です。
アニメでは、第四期第五話において、紅薔薇の物語のみアニメ化されました。
この記事では、祐巳と祥子の物語の次の場面に焦点を当てます。
祐巳が祥子と念願の遊園地に向かうものの、
祥子の具合が悪くなったときに優のように対応できず、
それゆえに嫉妬していたのに対し優が言葉をかけた場面です。

「僕は確かに、さっちゃんを好きだし、愛しているかと問われればイエスと答える。でも、好きにもいろいろある」
「いろいろって」
「さっちゃんが好きだが、祐麒も好きだ。そして、もちろん祐巳ちゃんのことも好きだよ」(中略)

「最後に一つだけ。僕を倒したって、君は勝てないよ」
「それは、どういう――」
「僕に嫉妬しているようじゃ、まだまだってこと。こんな所に留まってないで、もっと上のステージを目指せよ」
 (「薔薇のミルフィーユ」、181-183ページ)


この場面の優の「もっと上のステージを目指せよ」というメッセージは、
単に祐巳と優は祥子との関係において、
別々の位置に立っているということを示唆するだけのものではありません。
そういったテーマと同時に、祐巳が優の位置にいては駄目だということ、
優の位置は「こんな所」に過ぎないことまでも示唆しているのです。

ゆえに、このときの優の言葉は、祐巳が自分の内には、
色々な部屋があることを知覚し(「くもりガラスの向こう側」、144-148ページ)、果てには典に、
「好きは比べられない」と述べるに至る(「薔薇の花かんむり」、94-102ページ)辺りで明確になる、
「人間関係には順位が付けられないことがあり得る」という、
紅薔薇の物語のテーマとはある意味で独立に存在していると捉えられます。

「もっと上のステージを目指せよ」の直前の、
「好きにもいろいろある」という優の言葉については、
「好き」に順位を付けることができない場合もあるというテーマを含んでいるので、
明らかに後の典との対峙の場面に繋がっていますが、
この「もっと上のステージを目指せよ」という言葉だけは、
そういったテーマ以上のことも示しているのではないでしょうか。

今回は、この問いから、祐巳と優の立ち位置の違いを考えたいと思います。

先の言葉の中で強調されているのは、祥子との関係において、
祐巳と優は別々の部屋の中にいるため、競い合う関係にないということと言うより、
祐巳が優に優越している(優越し得る)ということです。
優は祐巳が自分と競おうとするのを、「それぞれ違う立場だから」というのではなく、
「君はこんな所で競うべきではないから」という理由で諌めています。

これは何故かを考えてみると、祥子にとっての優との関係というのは、
「これまでの祥子」――それはお嬢様、ないし生粋のリリアン生というイメージに適合するものです
――を形成するものであるのに対して、祐巳との関係というのは、
それとは異なる「これからの彼女」を形成するものであるためです。

優が遊園地で祥子を助けたとき、祥子は人ごみでまいってしまう、
いかにもお嬢様的な「これまでの祥子」として扱われていると言うことができます。
優は、祥子が「これまでの祥子」のまま生きていけるように振舞うのです。
それは重要な役割ですが、祥子が変わろうとし、また変わる鍵にはなりません。

祐巳はそうした優の立場に対して、
「これまでの祥子」から祥子を抜け出させる位置にいます。
祐巳は、祥子をハンバーガーショップに連れ出し、
遊園地に連れ出し、果ては花寺に連れ出しました。
祐巳は、祥子を「これまでの祥子」から抜け出させて、
「これからの祥子」に成長させる鍵なのです。

だから、祐巳は優の位置で留まっていてはいけないと考えられます。
「これからの祥子」にしていく祐巳が、
「これまでの祥子」を補佐して肯定するような優と同じステージにいるべきではない。

優が祐巳に自分の位置を下げて語るのは、
彼が祐巳による祥子の変化を望ましく思っているからに他なりません。

実際、祐巳が優のように振舞えるようになったらどのような事態が想定されるかというと、
極端に言えば、祐巳が「これまでの祥子」のことを鑑みて、
遊園地等に連れ出すこと自体を躊躇するようになるのではないかと考えられます。
「これからの祥子」に変えていく祐巳が、そうあるべきではないことは自明です。

それでは、優自身が「これからの祥子」に変えていく立場に付くことはできないのでしょうか。
けだし、優との関係自体が、「これまでの祥子」を形作ってきたために、それはできません。
とりわけ顕著なのは、男性が苦手であるという「これまでの祥子」の中心的性質とも言えるものを、
作り出してしまったのは優その人に他ならなかったということです。
優は、祥子が「これまでの祥子」のままでいられるように補佐するだけでなく、
その「これまでの祥子」をある程度作ってしまった張本人でもありました。
それゆえに、祥子が祥子自身を克服する鍵にはなれないのです。

そこで、祥子が克服するために助けになるのが祐巳(と蓉子)でした。
優はただ、そこで祥子が「これから」へ移行しようとする際に、
必然的に生じる相応の摩擦を捉えて、
必要ならば「これまで」のやり方で支えるという立ち位置にあるのです。

結論として、優の「もっと上のステージを目指せよ」という言葉で表されているのは、
次に言うような、祥子に対する祐巳と優の立ち位置の違いに他なりません。
すなわち、優は「これまでの祥子でもいられるように補佐する立場」であり、
祐巳は「これまでの祥子から抜け出させる立場」なのです。
そして優は、祐巳による祥子の変化を好ましく思っているので、
祐巳が自分と「こんな所」で競おうとするのを諌め、
「もっと上のステージを目指せ」と言ったと考えられます。
それは、これからの祥子とともに歩む祐巳への、
これからの祥子を願う「同志」からの発破であったに違いないのです。



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   祐巳が瞳子の姉になるまで:「姉の心情」の否定

  タイトル別
   ミステリーからリトルホラーへ (『マリア様がみてる リトル ホラーズ』「ワンペア」)


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ジャンル:アニメ・コミック

ミステリーからリトルホラーへ (『マリア様がみてる』「ワンペア」)

2013.10.17 17:40|マリア様がみてる
マリア様がみてる リトル ホラーズ (マリア様がみてるシリーズ) (コバルト文庫)マリア様がみてる リトル ホラーズ (マリア様がみてるシリーズ) (コバルト文庫)
(2009/07/01)
今野 緒雪

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本日は久々に、『マリア様がみてる』の記事です。
今回は特に、「リトル ホラーズ」に収録されている短編、「ワンペア」に注目します。
この作品に関して、先日ツイッターに書いたことをまとめ直していきます。

とはいえ、アニメ派の方など、この作品まで触れたことのない方もいると思うので、
祐巳たちの出てくる「リトル ホラーズ」本編の見所も少しだけ紹介してみます。
「リトル ホラーズ」は祥子と令が卒業して、祐巳たちが薔薇さまになった後の話です。
とりわけ印象的なのは次の場面で、祐巳が、由乃の妹になった菜々を諭しています。

「由乃さんさ。以前、自分より剣道が強い子は妹にしたくないって言ってたんだよね」
 祐巳さまが、ポツリと言った。その言葉を聞いて、菜々は「やっぱり」と思った。やっぱり、嫌なんだ。それが何であれ、自分より上に妹がいるというのは面白くないことなのだろう。
 祐巳さまの話では、その発言を聞いたのは去年の秋頃。山百合会主催の茶話会前後というから、まだ二人が出会う前のことだ。
「でも、結局菜々ちゃんを選んだ。それって、どういうことかわかる?」
 尋ねられて、正直に首を横に振る。何がきっかけで剣道上級者を妹にしたいと考えを改めたのかもわからなかったし、祐巳さまがそんな話をする理由もわからなかった。
「そんな条件がどうでもよくなっちゃうほど、菜々ちゃんが良かったってこと」
「え」
 思わず、水道管を離しそうになるほど驚いた。でもすぐに「まずい」と思って、慌てて握り直す。そんな菜々の様子を、祐巳さまは横目で眺めながらほほえんだ。
「菜々ちゃんを好きになっちゃったんだから。菜々ちゃんが妹になってくれるだけで、十分だってことじゃないの?」
 ああ、こんな時に。菜々は恨めしく隣りにいる人を見た。
本当に大切な人は、ただ側にいてくれるだけでいいんだってば
 どうして、こんな殺し文句をさらりと言ってくれるのだろう。 (176ページ)


ちょっと省略できず、一ページ全部引用してしまいました。
注目すべきは、ここでの祐巳の薔薇さまとしての振舞いですよね。
蓉子を思い出させるような、下級生に対する真っ直ぐな領導です。
祥子の卒業という一応のエンディングを迎えた後で、
きちんと薔薇さまになっている祐巳が、ここではっきりと描かれています。
「仮面のアクトレス」で蓉子を目標として挙げたことは、ここで回収されていると思います。
そして「フェアウェルブーケ」では、それに続いて聖のような祐巳も描かれる。

本編に関しては、なだらかなエピローグの雰囲気の中で描かれる、
「祐巳の成長の結果」こそ、注目すべき見所であると思います。



○ミステリーからリトルホラーへ:語らなくなる多子


それでは続いて、短編「ワンペア」に関する紹介に移ります。

『マリア様がみてる』で本編でない短編へ注目が集まることは相対的に稀ですが、
個人的にはこの「ワンペア」という短編がすごく好きなんですよね。
話としては、ただならぬ雰囲気を纏った異常に綺麗な双子の少女に、
その担任が翻弄される話なのですが、書き方が異様に怖いのです。

ワンペアの怖さというのは、結局真相がよく分からない点に求められるのですが、
その原因は、担任が双子に翻弄され、最後には捕らわれたことに見出せます。
彼女たちに惹きつけられたことで、担任が語るべきことを語らなくなる。
その不気味さが、「ワンペア」を確かにホラーにしていると思うのです。
もう少し詳しく述べていくことにしましょう。

多子(なこ)は、同い年の従兄である一也(かずや)が失踪したことを受けて、
彼が以前勤務していたリリアン女学園につてを使って就職します。
何故彼は失踪しているのか、彼は無事なのかをそこで確かめるためです。
結果、コハクとメノウという双子の生徒が、深く関係していたことを突き止めます。
そして、彼女たちの口から、一也の失踪の契機を聞かされることになります。
そして、多子は一也が今どこにいるのか、二人に問い質そうとします。

「一也はどこ?」
 多子は落ち葉の中で身を起こして、穴の縁に立つ二人を見上げた。髪にもコートにも土や葉っぱをつけたままだったが、構わなかった。
「知らないわ」
「私たちはここに落としただけ」
 冷ややかな視線が返ってくる。
「まさか」
 多子は半狂乱になって、足もとの落ち葉を素手でかき起こした。一也がここに落ちた。その後、どうなったのだ。まさか、まだこの下に――。
 必死で掘り返していると、頭上から高笑いが聞こえてきた。
「きれいよ先生」
「あなた、本当に素敵だわ」
 言い残して背中を向ける二人。
「待って」
 多子は、無我夢中で穴から這い上がると、必死で追いかけた。落ちた時にひねったのか、右足が痛くて思うように走れない。それをあざ笑うかのように、コハクとメノウは蝶のようにヒラヒラと逃げる。まるで、ここまでおいでと、からかっているみたいだ。
 銀杏並木を進んで、マリア像の前まで来ると、二人は立ち止まって振り返った。
 追いついた多子に、ニッコリとほほえむ。
 天使だろうが悪魔だろうが構わない。
 あまりに美しくて、多子は何もできないまま立ちつくした。 (161-162ページ)


この後、多子はただ平穏に授業を行い、時々双子の少女を気に掛けるだけで、何も語りません。
とりわけ最も大きな関心事であったはずの一也の生死についてまるで触れなくなります。
その不気味な多子の反転が描かれて、そのまま物語に幕が下ろされるとき、
読み手は彼女が翻弄された末に、どこかへ行ってしまったという感覚を抱かざるを得ないと思います。

確かに、一也が失踪するきっかけとなった事件に関しては、二人から明らかになりました。
しかし、一也の生死に関してはノータッチで、謎のまま残されています。
何故、多子はそのことについて何も語らなくなるのでしょうか。
失踪していた一也に実際に会うことができた?
死体になった一也にどこかで対面した?
先の引用と、「何も語らない」後日談からすると、どちらも異なります。
多子にとって、一也の生死がどうでもよい事柄になったからこそ、平穏に日々を過ごすのです。
眼前の美しい二人の前に、彼女たちに抱いた気持ちの前に、一也は霧散してしまいます。

言うなれば、一也の行方を追って、不思議な二人と対峙していた多子は、
彼女たちに穴に落とされ、マリア像の前でほほえまれたところで向こうに行ってしまったのです。
多子は殺されるわけでも何でもないのですが、読み手を置いて一線を飛び越えてしまった。
そこに何とも言えない恐怖があります。
それは、ホラーの登場人物が得体の知れない何者かに誘われて、
向こうの世界に取り込まれたのを見たときの恐怖に似たものです。

ゆえに「ワンペア」は、最初は『マリア様がみてる』お得意の「プチミステリー」で進行しながら、
最後に急に「リトルホラー」に化ける作品であると言うことができます。
多子が向こうに行ってしまったため、結局一也がどうなったのかよく分からない。
その結末に触れたときの怖さ、気持ち悪さは、確かにホラーがもたらすそれなのです。


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祐巳が瞳子の姉になるまで:「姉の心情」の否定

2012.12.16 15:08|マリア様がみてる
本日は『マリア様がみてる』に関して少し考察をしてみたいと思います。
対象は、祐巳と瞳子の関係についてです。
特に「瞳子の事情に対する祐巳の態度」に着目して、二人の関係を捉え直してみます。
瞳子の家庭事情は、二人が姉妹になるまで長く尾を引いた重大事です。
祐巳はそれに対してどのような態度で関与したのでしょうか。
また、そこからどのようなことが読み取れるのでしょうか。

まず、祐巳が「他人の事情」に対して一般的な態度を示した場面があります。
それは、体育祭で祐巳が可南子と勝負をする「レディ、GO!」の中の一コマです。
ここで祐巳は、奇しくも瞳子その人に自身の態度を示しています。

「そうか。瞳子ちゃんは、可南子ちゃんの事情を知っているんだ」
「ええ。こちらは、人から聞いたことですが。どの程度のことか、
 祐巳さまにもお知らせしましょうか? 彼女、お父さまが--」
「やめて、瞳子ちゃん」(中略)

「可南子ちゃんが私に直接話したいというなら、聞く。
 でも、今の私は瞳子ちゃんに聞いてまでそれを知る必要はないんだ」

 (『マリア様がみてる レディ、GO!』、pp.61‐62)


祐巳は人の個人的な事情に関して、聞かず立ち入らないという立場を表明しています。
祐巳と可南子の関係において、それは直接に問題となる事象ではないからです。
しかし、ただ一つ例外として、「情報に関わる本人の意志」があった場合を挙げています。
すなわち、可南子本人が望むのならば、それを知ることは吝かではないということです。
まとめれば、「原則は非関与」が祐巳の一般的な態度と言えます。

この原則を、祐巳は瞳子の場合には覆しています。
十二月、瞳子が家出をして祐巳の家に世話になった後に、
優がお礼にやってきたとき、祐巳は瞳子の事情に関して優に尋ねています。

「瞳子ちゃんが何で家出したのか、知っている?」(中略)

「瞳子からは……」
「何となく、聞けなかった」
 祐巳は正直に白状した。聞いても、きっと話してくれなかったと思う。
「それでも、あえて聞きたい、と?」
 一瞬、「面白半分」とか、「野次馬根性」とか、「ただの好奇心」とか、そういう嫌な単語が頭の中に浮かんだ。そんなんじゃない。そう打ち消したかったけれど、でもそれらの単語と自分の今の気持ちを並べてみても、どこがどう違うのだか境目がわからなかった。
 瞳子ちゃんのことが気になる。教えてもらえるのなら、それらの嫌な単語を引き受けったっていいとさえ思えた。

  (『マリア様がみてる 未来の白地図』、p.55)


この後、優はもう一度よく考えるように促したため、祐巳は事情を聞けませんでした。
しかし、祐巳はこのとき明らかに「原則は非関与」を破っています。
しかも、関与する例外的な条件として挙げられていた、「本人の意志」を無視する形でです。
その理由は何でしょうか。
これは引用の中に明示されています。
「瞳子ちゃんのことが気になる」からです。
この理由のために、祐巳は自身の一般的態度を崩しています。

これは祐巳が瞳子に対して既に「姉としての気持ち」を抱いている場面と取れます。
現に、原則は関与できない領域だけれど、それでも関与したいという心情は、
以下の場面で、祥子が祐巳に対して抱くものと酷似しています。
優に瞳子の家出の事実を初めて知らされる場面です。

 祐巳が言わなかったということは、今は相談すべきではないと判断したからだろう。それは、家出という、瞳子ちゃんのプライバシーに関わる話であったからかもしれない。いや、もしかしたら祐巳は、瞳子ちゃんのことは誰の力も借りずに解決しようと考えているのではないだろうか。
 成立するかどうかは正直言ってわからないが、これは間違いなく祐巳と瞳子ちゃんという「姉妹」の問題だから。たとえ姉とはいえ、踏み込めない領域もある。

  (『マリア様がみてる 大きな扉 小さな鍵』、p.38)


祥子が、自分の立ち入れる領域でないにも係らず、それが気になってしまっていることは、
この前の場面で無意識に、祐巳と瞳子のことを考えてしまっていることから明らかです。
そして祥子が「気になる」のは、彼女が祐巳の姉だからと考えられます。
それと全く同じようにして、祐巳も瞳子のことが「気になる」のです。

その時点で既に祐巳は形式はともかく、内面的には瞳子の姉となっています。
例え自身の踏み込めない領域でも、気になってしまう「姉の心情」
老婆心とまで言わないにしても、その姉らしい関与への性向を祐巳にも見出せます。

けれども、これを祐巳は最終的に否定します。
優に聞くか聞くまいか、悩んだ末に柏木家までやって来た祐巳は、
そこに自分を導いた決意を否定して、何も聞くことなく立ち去ります。

 瞳子ちゃんを妹にしたい。
 瞳子ちゃんのことを何でも知りたい。
 瞳子ちゃんを手に入れたい。
 だったら今すぐに指に力を入れて、柏木さんを呼び出せばいい。呼んで「教えてください」と頼めばいい。
(でも……!)(中略)

 祐巳は左手を添えて、インターホンの前で固くなった右手を下ろした。柏木さんに聞くことは、瞳子ちゃんの閉ざしたガラス窓を無理矢理外からこじ開けるようなものだと、気づいたのだ。
 そんなことをしてはいけない。そんなことをされたら、ますます瞳子ちゃんは心を閉ざしてしまうだろう。
 そんなことをする人は、お姉さまじゃない。
 そう呼んでもらう資格はない。
 祐巳は踵を返して歩き出した。

  (『マリア様がみてる くもりガラスの向こう側』、pp.189-190)


これは、結論だけに着目すれば、最初の原則に戻ったということです。
「本人の意志」という条件がない限り、「原則は非関与」
その一般的な祐巳の態度が、改めて繰り返されたというだけに見えます。
しかし、この場面は、「気になっているのに関与しない」というところが重要です。
一般的な態度の場合は、そこまで気になっていません。
それと、それを無視してしまうほどに気になるのに、その気持ちを押し殺すことは違います。
「お姉さま」として、姉としては当然の「気になる」心情を否定することこそ大切なのです。

その態度は上述の祥子の態度と一致します。
祐巳と瞳子のことを気にしながらも、彼女は必要以上に踏み込みません。
そこは当人たちの領域として尊重しています。
同様に祐巳も、自身の感情を否定して瞳子の意志を尊重します。
それこそが「お姉さま」であると、引用部にははっきり示されています。

結論として、「本人の意志」がない限り「原則は非関与」という一般的な態度を、
「瞳子のことが気になる」という姉として自然な「姉の心情」は否定しますが、
祐巳は、それを以て事情を聞くのは、姉としてしてはならないと更に否定しました。
換言すれば、祐巳は「姉の心情を否定して」、瞳子の姉に相応しい存在になったと言えます。

ご承知の通り、実際に祐巳が優から事情を聞きださなかったことで、
祐巳と瞳子という姉妹の問題は良い方向へ転びました。
部分的なものではありますが、姉としての心情を祐巳が否定する場面は、
怪獣のように「垣根をどんどん壊して」瞳子の方へと向かう方針を改めて、
瞳子を慮り、彼女を待つという方針へと転換する第一歩であったと位置づけられると思います。


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